「彼女?」

 アオさんの問いに、大きなため息で答えてしまった。そう思われても仕方ないにしろ。断定されるような関係でないのが、もどかしくって駄目だ。俺は首を左右に振った。

「ソラくんは好きなの?」

「……なんとも言えません」

 自分が思った以上に、重い口調になってしまった。苦くなってしまったような口に、ケーキを入れて誤魔化してみる。甘苦くなっただけのような気がした。

 ここでハッキリと言えないのは、相手がアオさんだからだ。前世がどうのこうの知らない彼女にとって、何て説明していいのか分からない。自分の感情ですらハッキリしてない今、無関係のアオさんを巻き込むような気がしたんだ。

「……好きなんやね?」

 アオさんが柔らかい微笑みで、イチゴを口にした。

 この動作を俺は、何処かで見た記憶がある。

 そう思った瞬間、俺の脳裏に何処かの光景が浮かんだ。

 暖かい日差し、心地よい風。光るように茂った草原にテーブルが置いてあり、そこには三人の人影が椅子に座っていた。

 テーブルには皿が三段のスタンドが置いてあり、サンドイッチやスコーン。そして、イチゴが置いてあった。

 金髪の少女が、ティーカップを片手に微笑んでいる。その隣には、鳥のような見た目の人が居た。何故か知らないが此処にいる俺は、その鳥人間について何の疑問を持っていない。

 それより正面に座る、金髪の少女の顔が気になった。青い瞳、水色のドレス。イチゴが好物の、心優しい動物好きの少女。

「ソラくん?」

 誰かの言葉で俺は我に返る。眠りから覚めたような気分で、辺りを見回す。コンビニ、イートインコーナー。空になったケーキの容器、手には紅茶のペットボトル。隣に居るのは誰だ、って思ってしまった。

 落ち着けソラ、彼女の名前は大丸アオさん。クロと梨花の友達で、それから。それから。

「どうしたの?」

 アオさんは俺を心配するかのように、顔を覗かせた。この人は、誰だって思ってしまった。

「体調、悪い? 雨に濡れたの?」

 優しい言葉を掛けられても、俺はこの人が誰か分からなくなってしまっている。彼女は大丸アオさん、クロと梨花の友達だ。

「……そう、かも。です」

 彼女は大丸アオ、クロと梨花の友達。決して、バロン・ド・ボンベイの娘なんかじゃない。