バイク着男が大声を上げたので、駆け付けた相原にまでスッポンポンを見られそうになった。ずぶ濡れの人が止めてくれたから、セーフだったけれど。

 そしてバイク着の方が噂の相原の兄、ジャッカスという男らしい。

 自己紹介で正式名称は聴いたけれど、ジャッカスと呼んでいいらしい。ずぶ濡れの制服を着た人は、みぃなチャンと呼ばれてたけれど。俺は流石に苗字に先輩を付けて呼称する。若葉田だと長いので、わかば先輩で良いらしい。

 やっぱりジャッカスさんの服だから、凄くダボダボだった。ズボンも入らなかったので、「光のスパッツ使うか?」と聞かれた。それだけは勘弁と断ったら、ベルトまで用意させてしまった。

 わかば先輩が部屋で着替えている間、リビングではジャッカスさんが俺に土下座した。でも相原には世話になっている上、兄には間接的にCDを借りている。

「気にしないでください」って俺は言ったけれど、相原にもジャッカスさんにお詫びをさせるように言われた。財布まで出してきたので、流石に困ってしまった。

 バイクを繰って水たまりを使役したり、いきなり脱衣所を開けたりするし、きっと破天荒な人間かと思った。けれどジャッカスさんはイカツイ見た目の割には、人間が出来ているように思えた。自分が悪いとはいえ、普通は妹と同じ年の奴に土下座までは出来ない。

 そりゃあ、相原の兄なだけあるか。家もお金持ちみたいだし、その辺りはちゃんとしているのかもしれない。だからと言って、現金を受け取るわけにもいかない。本来なら、こっちがCDのレンタル料を払わなきゃいけないくらいなんだ。

「……それじゃあ」と俺は相原から少しジャッカスさんを離して、小さな声で話掛ける。

「ジャッカスさんって、恋愛経験って、豊富ですか?」

 本当は耳打ちしたかったけれど、身長差が有りすぎたんだ。背伸びでも無理だったから、謎の行動になってしまった。

「当たり前だろう。総合高校の恋愛マスターとは、このジャッカス様じゃい」

 ジャッカスさんの出した学校名は、クロの通う高校だった。そういえば、わかば先輩が着ていたのも、従兄と同じ制服だった。

 冷蔵庫から瓶のコーラを三本取り出して、ジャッカスさんは俺に手渡した。

「光。洗濯終わるまで、ソラっち借りるぞ」

「え? うん、分かった」

「行くぞ」

 ジャッカスさんは高価そうなグラスを三つ持って、俺を廊下へと案内した。その先にある三つの部屋、一番奥のドアをジャッカスさんが開ける。

 上半身裸のわかば先輩が、驚いた顔をこっちを向けた。まだ着替えている最中だったのか、俺もかなりビックリした。なのにジャッカスさんは顔色一つ変えずに、部屋のテーブルにグラスを置いた。

「おま、閉め、ジャッカス!」

 わかば先輩が慌てて、部屋のドアを閉めた。プロレスラーみたいに肩幅があって、立派な腹筋だと思った。クロじゃなくて、この人の前世がギルド一の戦士なんじゃないかと思った。