ロビオラボシナのCDが入ったというから、今日は最高の日だと思ってた。雨も止んだし。空をふと見上げたら、鮮やかに光る虹が心を囲うように掛かっていたし。
でも今は、七月入って一番最悪な日だって思っている。
相原の家に向かっている最中の話だ。うちのマンションを通り越し、公園の下の坂を歩いていた。時々相槌を打ちながら、適当な話をしていただけ。俺は何も悪いことなんて、していない筈に決まっている。
なのに、急に水たまりが俺を襲った。
水たまりに恨みを買った覚えは無いし、前世でもきっと無い筈だ。後できのみさんに聞いてみようかと思っていたら、相原が顔を真っ青にしていた。
一連の出来事を聞けば、道路を走っていたバイクが水たまりを跳ね飛ばした。それが思い切り、俺に掛かってしまったというらしい。
そして重要なのは、そのバイクに相原は見覚えがあった。聞いて驚いたのは、犯人はジャッカスという人物だという。ジャッカスって確か、相原の兄の異名だ。俺はCDを借りようとした人に、ずぶ濡れにされてしまったのか。
相原は短いポニーテールがこっちに向いてしまうくらい、とても深く頭を下げた。そして追い打ちを掛けるかのように、再び雨が降り出してきた。
俺は折れてる心の中、折れてない傘を捨てようかと思った。ズブ濡れ楽し気な振りでもしようかな、って止められたけど。
そんなわけで俺は今、相原家の風呂場にいる。暖かくなってきたとはいえ、まだ梅雨明けはしていない。そのまま帰ったら、馬鹿でも風邪はひくかもしれないしな。
好意に礼を言ったけれど、逆にお詫びだと言われた。悪いのは全部、ジャッカスなんだとさ。それにしても、何でジャッカスなんだろう。どういう意味なのか。
シャワーを出ると、タオルと服がカゴに置いてあった。洗濯機が回っているのは、我が衣服と見て間違いがない。それが終わるまで着ていてと用意されたのが、ジャッカスの服らしい。結構大きそうだけど、大丈夫なんだろうか。俺はタオルを取り、頭を拭き始めた。
ガラガラという、何かが開く音が耳に入ってきた。
すぐ右から聴こえたので、俺は音の方を向いた。
バイクのレーサーみたいな服を装備した男と、ずぶ濡れの制服を着た男が、開いた脱衣所のドアの前に立っていた。
この時の所持品はタオルだけだが、武器と防具は装備しないと意味がない。先ほどまでは装備する必要性が無かったから、手に持って頭を拭いていた。
平たく言うと、今の俺は産まれたままの姿。すなわち、スッポンポン。ニッポン人のスッポンポン、ニッポンポン。
俺は頭がパニックになりかけるけれど、相手はどっちも男だし。じゃあ問題無い、と思ったけれど、バイク着の男が驚きの大声をあげた。
「ホイップのダテリカって、男だったのかよぉぉぉ!」
「俺は梨花じゃねぇぇぇよぉぉ!」