その日の空は曇天で、まるで俺の心境を表しているようだった。まるでコーヒーを入れたミルクのようだって思った。

 蒼穹は蒼魔導士である天で、星空は黒魔導士である俺の支配領域。それじゃあ、雨雲が包んだ今は、一体誰の領域なんだろう。

 今日も授業には実が入らなかったのは、天のせいとか言いたいんだけどさ。元々、そんなに勉強が好きじゃあないんだ。でもクロの通う高校に入るには、もう少し頑張らないといけない。中学二年だからと言って、気を抜いていい訳がない。

 そんなのは分かっている。先週の期末考査も、何とか赤点回避出来たくらいだったんだ。学生の本分は勉強なんだけれど、愛とか恋とかの勉強は、どこで学べっていうんだ。

 下らないことを一杯考えて、つまんないことを一杯思って。大事なことや肝心なことが見えないなんて、よくあることなんだろうけれどさ。もし、あれが夢だったっていうんなら、俺はいつまでも覚めない夢の続きを、いつまでも見てたかった。

 こんな休み時間だって、天は相変わらずの天だった。相原達に話を振って、俺にも何食わぬ顔で話掛けてくる。それが少し寂しい、って思っちゃうのは蒼魔導士の掛けた魔法なんだろうか。

「おっしい」

 声を掛けてきたのは、天じゃなく相原だった。

「ロビオラボシナの新曲、兄ぃが買ったんだって」

 相原の言葉に俺はさっきまで考えていたものが、頭から一気に滑り落ちた。

「まじでか」

 ロビオラボシナとは、イタリアの有名ロックバンドだ。日本人で知るものは少ないけれど、以前に適当な動画サイトで紹介されてたのを聴いて、ファンになってしまった。何とか音源を手に出来ないかって思っていたら、意外にも相原がそれを知っていた。彼女の兄がファンだと聞き、必死に貸してくれるように頼んだら、そのまま話をつけてくれた。それ以降、面識の無い相原の兄のCDを借りれるようになっていた。

「今日……は、天気悪いし。月曜持ってこようか?」

「いや、待てない。取り行ってもいい?」

「いいよ」と相原が言った瞬間、天が不穏な瞳を俺に向けた。

「ダメでしょ、おっしい。女の子の家にいきなり行くのは」

 お前は関係ないだろう、と口にしようと思って止めた。確かに天の言葉も、一理はあるような気がした。

「別にいいよぉ、部屋入れるわけじゃないし」

 相原が満面の笑みで言ったので、天はそれ以上何も口にしなかった。どこか名残惜しそうな表情だったけれど、自分も行きたいなら言えば良かったのに。