梶山side
あいつが抵抗する度、
あいつが「やめて」と泣く度、
自分が何をしているのか分からなくなった。
動けないようゲームのコントローラーのケーブルであいつの手首を拘束して。全部が終わって腕を解放したら、その腕は余程ケーブルを外したかったのか、赤黒く変色していた。
「海翔・・・」と呟いたの声も、聞きたくなくて、揺さぶっている間ずっと片手で長閑の口を塞いでたような気がする。
手に持っていたコントローラーを、思いっきり壁へと投げつけた。鈍い音がしたコントローラーは床へと落ち、壁には大きな穴が空いた。
「・・・ごめん、ごめん・・・長閑」
謝っても、もう長閑はこの部屋にいないのに。
これで、良かったのか・・・。
正しいことをしたのかも、泣いたあいつの顔を思い出せば、それが良かったのかも分からない。
他の方法があったんじゃないかとか。
抱いた後に思うなんて・・・。
『・・・もしもし』
繋がった通話先の相手は、少し声が枯れていた。
「・・・大丈夫かよ」
『あーうん、平気』
笑いながら、電話の相手は答えた。
「・・・今から会える?」
『うん、どこに行けばいい?』
こいつも辛いはずなのに、
どこまでも性格がいいやつ。
「俺んちの、裏の公園。あそこなら誰も来ねぇから」
『分かった。30分ぐらいでつくと思う。』
電話を切った後、俺はガンっと、自分の机を蹴った。
汚れた制服。
怪我だらけの顔。
きっと制服の中は、
凄いことになってるんだろうと思う。
「・・・ごめん、遅れた」
連絡をして20分ほどだってのに、もうそいつは来ていた。足が痛むのか、膝元を擦りながらベンチに座っている。
「いいよ。今来たとこだし」
そう言って笑うけれど、アザだらけの顔は、本当に痛々しい。
「大丈夫かよ、体。痛えんじゃねぇの?」
「平気だよ。そんなに痛くないし」
痛くないはずない。
そんなに怪我だらけなのに。
「海翔、手加減してくれてるから」
海翔の名前が出て、さっきの長閑を思い出した。
あいつの泣き顔はもう見たくないって思ってたのに、泣かせてしまったのは俺・・・。
「カジこそ、なんか用があったんだろ?急にどうしたんだよ珍しい」
「別に用って程じゃない・・・」
「けど、海翔には言えない事だろ?」
その通りだった。
海翔には言えない。
バレたら、多分縁切られるだろうなぁ・・・。
でも、こうするしか無かった。
他にもやり方はあったかもしれない。
本当はやめようとした、
泣くあいつを見て、「冗談」と、笑うつもりだった。
けど、海翔の名前を呼ぶから・・・。
「長閑と、ヤった」
空にしか聞こえない小さな声。
空の目が、見開くのが分かった。
「は・・・、え、なんで?だって高橋さんは・・・。海翔の」
「押さえつけて、無理矢理ヤった」
「ちょっと待ってよ。やったって・・・」
「こうするしかねぇだろ、あいつが・・・大地の事聞いてきたから。もう終わってる事件なのに、あいつが・・・」
「だから無理矢理抱いたの?カジから離れるように!?何でそんな事・・・!!」
「元はと言えば、空がストラップ付けてるから悪ぃんだろ!!なんで大地のストラップ持ってんだよ!?それが無かったらこんな事には」
「俺だって知らなかったよ!あのストラップが、高橋さんに関係あったなんて。知ってれば付けなかったよ!」
「クソッ・・・!!」
「内緒にしなきゃ・・・。それが大地の望みなんだから。だから俺も我慢してるし・・・」
「なんで海翔なんだ?」
「カジ・・・」
「なんで、“あの時”、大地は・・・、海翔を」
「・・・・・・」
「なんで海翔なんだよ・・・。俺だって・・・」
ずっと前から、長閑の事が好きだったのに。
“あの時”の、アレが、海翔じゃなくて俺だったら・・・って、何回思ったか分からない。
「あの時の大地は必死だったから・・・。1番近くにいた海翔に頼んだんだよ・・・。もしかしたらカジだったかもしれない」
「なんだよ・・・。慰めかよ」
「そんなんじゃない・・・。っていうかどうするの。これから。高橋さんを・・・無理矢理・・・。海翔にバレでもしたら」
「長閑は言わねぇよ」
「けど」
「俺が言わない限り、絶対に言わない」
「・・・」
「そういうやつなんだよ、長閑って」
「・・・」
「そこに惚れたんだろうなぁ、海翔も。女なんか興味無かったくせに」
入学式ん時に、告った時はマジでびっくりした。
つーか聞いてねぇし。
はあ?って感じ。
あの後追いかけても、「言われたから」しか言わなかったし。絶対に、あの時の海翔は長閑を好きじゃなかった。なのに、いつのまに本気になってんなよ。
長閑も何返事してんだよ。
だってお前大地がいるじゃんって。
ふざけんなよマジで・・・。
海翔よりも、ずっと見てきたのは俺なのに。
長閑が好きだ。
でも、同じぐらい、海翔も親友として好きだ。
けどやっぱり、長閑を守りたい。
「大丈夫だよ、カジ」
「どこが大丈夫なんだよ」
「絶対にバレないようにするから。大地のためにも、高橋さんのためにも・・・。それから、カジも海翔も。バレないようするなら何だってするよ」
「まだ、これからも殴られていいのかよ・・・」
「だから、大丈夫だって。海翔が本気なら俺もこうやって学校に来てないよ。やばいって思った時は「飯行くぞ」とか言って止めてくれるし。たまに気ぃ失う時もあるけど」
「・・・」
「海翔も、辛いだろうから」
「・・・」
「高橋さんにも、知られたくないからってもう無理矢理しちゃダメだよ、絶対。高橋さんが好きなら・・・。そんなことしちゃ・・・」
分かってる。
分かってるけど・・・。
「俺は海翔になりたい・・・」
「・・・・・・カジ・・」
「ごめん・・・、ごめん長閑・・・」
「俺の方が悪いよ・・・。俺は殴られる事しか出来ないから。カジはそのままでいいよ。大丈夫」
長閑に知られたくない秘密がある。
絶対に絶対に知られたくない事実・・・。
俺はそれを守るためなら何でもするって決めた。
長閑と海翔が付き合った時、すげぇ腹が立ったけど、長閑が忘れられるなら・・・って思って2人を見守ってた。でも何だよ、今日の。大地のストラップを見たからってあんなに取り乱して・・・。全然忘れてねぇじゃん。
もうあの事件のことを長閑に思い出して欲しくないのに、忘れていて欲しかった。
長閑はずっと海翔の方を見とけよって。
このまま海翔のそばにいればいいって。
もう俺のつきいる隙が無いぐらい、海翔の事を思っていて欲しかった。
でも、やっぱりまだ長閑は大地の事を忘れていなくて、海翔じゃなくてもいいんじゃないかとか思ってしまう。
俺がそばにいるからって、言ってしまいそうになる。
けど俺がそばにいたら、長閑は絶対に大地の事を思い出すから・・・。だから海翔と付き合ってから長閑の事を避けていたのに。
長閑のそばにいたい。
けど、長閑を守るって決めたから。
長閑が俺に近づかないように、無理矢理抱いた。
自分がどうしたいのか分からない。
もう近づかないように抱いたのに、「明日も来い」とか言って。・・・マジで矛盾してる。
「分かるよ、カジの気持ち。高橋さんのことが好きだから内緒にしたいってこと」
あの事件の、長閑がしらない事実を。
「でも内緒にしたいぶん、カジは高橋さんから距離を取らなくちゃいけない。高橋さんから離れさせるために無理矢理抱いたのは納得いかないけど・・・」
大地が関わる事件を、
長閑が知らないまま忘れてほしい。
でも俺がそばにいちゃ、長閑は大地を忘れられない。
「けど、やっぱりカジは高橋さんのことが好きだから、一緒にいたいんだよね。」
そうだよ、
俺が海翔の役になりたかった。
「ほんと、時間を巻き戻せればいいのに・・・」
空が小さく呟いたのは
俺がずっと思っていたことだった
あいつが抵抗する度、
あいつが「やめて」と泣く度、
自分が何をしているのか分からなくなった。
動けないようゲームのコントローラーのケーブルであいつの手首を拘束して。全部が終わって腕を解放したら、その腕は余程ケーブルを外したかったのか、赤黒く変色していた。
「海翔・・・」と呟いたの声も、聞きたくなくて、揺さぶっている間ずっと片手で長閑の口を塞いでたような気がする。
手に持っていたコントローラーを、思いっきり壁へと投げつけた。鈍い音がしたコントローラーは床へと落ち、壁には大きな穴が空いた。
「・・・ごめん、ごめん・・・長閑」
謝っても、もう長閑はこの部屋にいないのに。
これで、良かったのか・・・。
正しいことをしたのかも、泣いたあいつの顔を思い出せば、それが良かったのかも分からない。
他の方法があったんじゃないかとか。
抱いた後に思うなんて・・・。
『・・・もしもし』
繋がった通話先の相手は、少し声が枯れていた。
「・・・大丈夫かよ」
『あーうん、平気』
笑いながら、電話の相手は答えた。
「・・・今から会える?」
『うん、どこに行けばいい?』
こいつも辛いはずなのに、
どこまでも性格がいいやつ。
「俺んちの、裏の公園。あそこなら誰も来ねぇから」
『分かった。30分ぐらいでつくと思う。』
電話を切った後、俺はガンっと、自分の机を蹴った。
汚れた制服。
怪我だらけの顔。
きっと制服の中は、
凄いことになってるんだろうと思う。
「・・・ごめん、遅れた」
連絡をして20分ほどだってのに、もうそいつは来ていた。足が痛むのか、膝元を擦りながらベンチに座っている。
「いいよ。今来たとこだし」
そう言って笑うけれど、アザだらけの顔は、本当に痛々しい。
「大丈夫かよ、体。痛えんじゃねぇの?」
「平気だよ。そんなに痛くないし」
痛くないはずない。
そんなに怪我だらけなのに。
「海翔、手加減してくれてるから」
海翔の名前が出て、さっきの長閑を思い出した。
あいつの泣き顔はもう見たくないって思ってたのに、泣かせてしまったのは俺・・・。
「カジこそ、なんか用があったんだろ?急にどうしたんだよ珍しい」
「別に用って程じゃない・・・」
「けど、海翔には言えない事だろ?」
その通りだった。
海翔には言えない。
バレたら、多分縁切られるだろうなぁ・・・。
でも、こうするしか無かった。
他にもやり方はあったかもしれない。
本当はやめようとした、
泣くあいつを見て、「冗談」と、笑うつもりだった。
けど、海翔の名前を呼ぶから・・・。
「長閑と、ヤった」
空にしか聞こえない小さな声。
空の目が、見開くのが分かった。
「は・・・、え、なんで?だって高橋さんは・・・。海翔の」
「押さえつけて、無理矢理ヤった」
「ちょっと待ってよ。やったって・・・」
「こうするしかねぇだろ、あいつが・・・大地の事聞いてきたから。もう終わってる事件なのに、あいつが・・・」
「だから無理矢理抱いたの?カジから離れるように!?何でそんな事・・・!!」
「元はと言えば、空がストラップ付けてるから悪ぃんだろ!!なんで大地のストラップ持ってんだよ!?それが無かったらこんな事には」
「俺だって知らなかったよ!あのストラップが、高橋さんに関係あったなんて。知ってれば付けなかったよ!」
「クソッ・・・!!」
「内緒にしなきゃ・・・。それが大地の望みなんだから。だから俺も我慢してるし・・・」
「なんで海翔なんだ?」
「カジ・・・」
「なんで、“あの時”、大地は・・・、海翔を」
「・・・・・・」
「なんで海翔なんだよ・・・。俺だって・・・」
ずっと前から、長閑の事が好きだったのに。
“あの時”の、アレが、海翔じゃなくて俺だったら・・・って、何回思ったか分からない。
「あの時の大地は必死だったから・・・。1番近くにいた海翔に頼んだんだよ・・・。もしかしたらカジだったかもしれない」
「なんだよ・・・。慰めかよ」
「そんなんじゃない・・・。っていうかどうするの。これから。高橋さんを・・・無理矢理・・・。海翔にバレでもしたら」
「長閑は言わねぇよ」
「けど」
「俺が言わない限り、絶対に言わない」
「・・・」
「そういうやつなんだよ、長閑って」
「・・・」
「そこに惚れたんだろうなぁ、海翔も。女なんか興味無かったくせに」
入学式ん時に、告った時はマジでびっくりした。
つーか聞いてねぇし。
はあ?って感じ。
あの後追いかけても、「言われたから」しか言わなかったし。絶対に、あの時の海翔は長閑を好きじゃなかった。なのに、いつのまに本気になってんなよ。
長閑も何返事してんだよ。
だってお前大地がいるじゃんって。
ふざけんなよマジで・・・。
海翔よりも、ずっと見てきたのは俺なのに。
長閑が好きだ。
でも、同じぐらい、海翔も親友として好きだ。
けどやっぱり、長閑を守りたい。
「大丈夫だよ、カジ」
「どこが大丈夫なんだよ」
「絶対にバレないようにするから。大地のためにも、高橋さんのためにも・・・。それから、カジも海翔も。バレないようするなら何だってするよ」
「まだ、これからも殴られていいのかよ・・・」
「だから、大丈夫だって。海翔が本気なら俺もこうやって学校に来てないよ。やばいって思った時は「飯行くぞ」とか言って止めてくれるし。たまに気ぃ失う時もあるけど」
「・・・」
「海翔も、辛いだろうから」
「・・・」
「高橋さんにも、知られたくないからってもう無理矢理しちゃダメだよ、絶対。高橋さんが好きなら・・・。そんなことしちゃ・・・」
分かってる。
分かってるけど・・・。
「俺は海翔になりたい・・・」
「・・・・・・カジ・・」
「ごめん・・・、ごめん長閑・・・」
「俺の方が悪いよ・・・。俺は殴られる事しか出来ないから。カジはそのままでいいよ。大丈夫」
長閑に知られたくない秘密がある。
絶対に絶対に知られたくない事実・・・。
俺はそれを守るためなら何でもするって決めた。
長閑と海翔が付き合った時、すげぇ腹が立ったけど、長閑が忘れられるなら・・・って思って2人を見守ってた。でも何だよ、今日の。大地のストラップを見たからってあんなに取り乱して・・・。全然忘れてねぇじゃん。
もうあの事件のことを長閑に思い出して欲しくないのに、忘れていて欲しかった。
長閑はずっと海翔の方を見とけよって。
このまま海翔のそばにいればいいって。
もう俺のつきいる隙が無いぐらい、海翔の事を思っていて欲しかった。
でも、やっぱりまだ長閑は大地の事を忘れていなくて、海翔じゃなくてもいいんじゃないかとか思ってしまう。
俺がそばにいるからって、言ってしまいそうになる。
けど俺がそばにいたら、長閑は絶対に大地の事を思い出すから・・・。だから海翔と付き合ってから長閑の事を避けていたのに。
長閑のそばにいたい。
けど、長閑を守るって決めたから。
長閑が俺に近づかないように、無理矢理抱いた。
自分がどうしたいのか分からない。
もう近づかないように抱いたのに、「明日も来い」とか言って。・・・マジで矛盾してる。
「分かるよ、カジの気持ち。高橋さんのことが好きだから内緒にしたいってこと」
あの事件の、長閑がしらない事実を。
「でも内緒にしたいぶん、カジは高橋さんから距離を取らなくちゃいけない。高橋さんから離れさせるために無理矢理抱いたのは納得いかないけど・・・」
大地が関わる事件を、
長閑が知らないまま忘れてほしい。
でも俺がそばにいちゃ、長閑は大地を忘れられない。
「けど、やっぱりカジは高橋さんのことが好きだから、一緒にいたいんだよね。」
そうだよ、
俺が海翔の役になりたかった。
「ほんと、時間を巻き戻せればいいのに・・・」
空が小さく呟いたのは
俺がずっと思っていたことだった