『他の男のとこにでも行けばいいだろ!』
『あなただってそうでしょ?!どうして私ばっかり言われないといけないの!』
『お前が子供の面倒を見ずに遊んでるから!』
『じゃああなたは残業って嘘ついて言いと思ってるの?!』
『付き合いだから仕方が無いだろう!!』
───ポチャン、と湯船の中に滴が落ちた。
湯船につかりながら両親の会話を思い出す。
思い出すのは両親の言い合いばっかりで、その光景を見ていた小学高学年だったその時の私は、もうこの人たちは私達を置いていくだろうと思っていた。
離婚するだろうと思っていたけど、お父さんが『世間体が』どうたらって言って、離婚はしていないけれど。二人とも家にいなければ、結局同じことだと思う。
「姉ちゃん、パパとママ、帰ってこないね」
まだ離婚や浮気っていう言葉を知らない低学年の蓮。
「でも姉ちゃんがいるから寂しくないや」
「うん。ずっと一緒にいようね」
随分昔の連との口約束。
連は、覚えているのだろうか?
いつも7時に目覚ましを合わせているけど、今日はいつもより一時間早い6時に起床。
リビングにいけば誰もいなくて、まだ連は眠っているらしい。
7時過ぎごろリビングの扉が開き、「なにしてんの?」とまだ寝癖がついている蓮が入ってきた。眠りが覚めていない連は、こっちに近より大きな欠伸をする。
食器を洗いながら、目線で合図をした。
「お弁当、それ蓮の分ね」
「え?俺の?」
目を見開いた蓮は、どうやら目が一瞬にしてさめてしまったらしい。
風呂敷に包まれた弁当を持ち上げ、「何で急に?いつも購買なのに」と不思議そうに言う。
「早く起きちゃったから」
体調管理のため、なんて言えるわけがない。
「ふうん?ありがとう、なんか嬉しいなこういうの」
私には父も母もいるけれど、こうして会話が出来るのは蓮だけなんだと、改めて実感した。
本当に姉失格なのかもしれない。
だって梶山に言われなかったらこうやって弁当を作る事なんて無かったんだから。
「あ、そうだ。火曜日の5時から面談になったから」
「三者面談?」
「うん、ごめんな」
別に謝らなくてもいいのに。
蓮は蓮で、迷惑をかけないようにと思っているのだろうか。
案の定というか、やっぱりなーというか、遅刻を滅多にしない篠田の姿は教室には無かった。
うっすらと教室の床には血の跡があり、これは鈴宮の血なのか、それとも篠田の血なのかとぼんやりと考え込んでいた。
鈴宮は岡田に目をつけられて、みんなから暴行されているけど学校を休むってことをしない。
けれども篠田は目をつけられてから1日で学校を休んだ。
どうしてこうも違うのだろうか?
「なーに考えてんの、次体育だよ」
口元をマスクで隠し、まだ化粧をしていない綾。
そういえば「体育って汗かくじゃん?それで崩れるから」と、言っていたような気がする。
「やめとく、教室にいるね」
「おっけ、じゃあまた後で~」
勉強は結構好きだったりする。だけど体育だけは好きにはなれない。多分、小学校の時から運動音痴だから、やる気にならないだけだと思うけど。
球技は目が追いついてくれないし、徒競走だって足が思うように動いてくれない。
だから運動が好きな人とか、プロで活躍している人は凄いと思う。だって私には到底出来ない事だもの。
何て事を考えながら、私の視線は教室の端の方を見ていた。そこには俯いて、意識があるか無いのか分からない程浅い呼吸をしている男がいた。
教室に二人きりなんて、いつぶりだろうか?体育の時だって彼はいつも授業に出てるのに。起き上がれないほど、参ってしまっているのだろうか?
「大丈夫?」
と、近寄り声をかければ、男はピクリと肩を動かして俯いていた顔をゆっくりとあげた。
なんだ、意識を失ってたんじゃ無かったんだ。
「鈴宮。保健室行く?」
綺麗な二重の目と目が合ってしまった。色素が薄いのか、少し瞳の色が茶色っぽい。
「…大丈夫だよ」
アザだらけの顔を動かして、笑顔を作る鈴宮。鈴宮にとって学校は地獄なような場所に違いないのに、こうやって穏やかな笑顔を作る事が出来るのか。
どうして笑えるの?
どうして学校にくるの?
どうして岡田から逃げないの?
「ならいいけど、少しはあいつらに歯向かっても良いんじゃない?」
「…そんな事できない」
「どうして?やり返せばいいじゃん。あいつらが一方的にするのはおかしいよ」
「それは違うよ、高橋さん」
何が違うの?
「鈴宮も岡田が怖いの?」
「そういうのは思ったことないよ、海翔は…海翔は俺の為にしてくれてるんだ」
「え?」
俺の為?
それって、どういうこと?
それに"海翔"って…
呼び捨て?
鈴宮が岡田のことを?
呼び捨てができる仲っていうわけでも無いのに?
まさか鈴宮自身が岡田に苛めてくれって言ったとか?
「鈴宮ってMなの?」
「それも違うよ」
「違うの?よく分かんないね」
「うん…、っていうか高橋さん、俺と喋っていいの?もし誰かに見つかったら高橋さんまで」
「大丈夫だから」
もし誰かに見られて岡田にチクられたとしても、岡田は私には優しいし、絶対に怒らない。
あ、でも
その分鈴宮へ目を向けられるかも。
「これ、使って。岡田にバレちゃ駄目だよ。置いとくから」
「え、高橋さん…」
鈴宮の近くの床の上に置いたポケットティッシュとハンカチ。
「血出てるから、ティッシュでふいて。ハンカチは濡らした方がいいかもね」
そう言い残し、何か言いたげな鈴宮を無視して教室を出た。
クラスの仲間を使い鈴宮を虐める岡田。そして「俺のために」と、岡田の事を「海翔」と呼び捨てにする鈴宮。
二人の関係は何?
また一つ、疑問が増えた。
唯一不良グループの中で鈴宮の事を虐めていない梶山は、何か知っているのだろうか?
「第一希望の高校は今の学力でしたら大丈夫でしょう。一応念のために私立の高校も7月までに一緒に決めてください」
久しぶりにした母校。
蓮のクラスの担任である若い男の教師は、見たことが無い教師だった。
去年か今年に赴任してきたのだろう。
三者面談はどうやら蓮の受験の話についてらしい。
「はい、両親にもそう伝えます」
伝える事なんて、これっぽっちもないけど。どこの高校へ行っても、あの人達は何も言わないだろうし。
「はい。よろしくお願いします。
それにしても、高橋にこんな美人なお姉さんがいたんだな」
最初は私に、間を空けて蓮へと爽やかな笑顔を向けて言う担任。
「…ん、まあ」
「お姉さんも、忙しい中ご両親に変わって今日はありがとうございました」
「いえ、よろしくお願いします」
「こちらこそ。お姉さんはここの卒業生でしょう?時間がありましたらゆっくりしていってくださいね」
「はい」
ゆっくりとは?
ああ、母校だから
"懐かしい"という雰囲気を味わって、ということか。
三者面談が終わり、教室を出ると他のクラスでも三者面談をしているのか、何人か生徒と保護者が廊下で順番待ちをしていた。
生徒は生徒同士、
保護者は一人で携帯をいじっていたり、顔見知りなのか保護者同士挨拶をしている人達もいた。
その生徒同士で喋っていた男の子達は、蓮が教室から出てきたことに気づき蓮の名前を呼んだ。
「どうだった?面談」
「つーか、蓮っとこって姉ちゃんが来てくれたの?いいなあ、俺んとこ母さん先生と馬鹿みたいに喋るから恥ずかしいんだよなー」
どうやら蓮の友達らしい。
見た事は無い、っていっても、蓮の友達で知っているのは梶山の弟の悠人だけだけど。
「普通だった、私立だけ早く決めろってよ。
そういえば俺がお前ん家行った時すげぇ喋りかけて来られたわ。大和(やまと)の母さん」
「げー、俺決まってねぇし、絶対言われるじゃんそれ」
「だろー?。え、二人とも決まってねぇの?じゃあ俺と一緒にしようぜ」
「ばか、大和は私立男子校だろ?無理無理、絶対無理」
「大丈夫だタケ、お前共学でもモテねぇから。なあ蓮」
「確かに」
「うわ、うっぜぇお前ら!」
3人の会話を聞きながら、ぼんやりと蓮の顔を見ていた。
蓮って友達の前ではこうやって笑うんだ、と。
こんなにもずっと笑っている蓮を見るのは久しぶり…、かもしれない。
最後に見たのは、私と蓮が小学生のころで、確か悠人と蓮が校舎内を走り回っている時だったような?
「蓮、私先に帰るね。」
蓮に話しかけると、大和とタケと呼ばれた男の子二人はこちらを向いた。
「待って。俺も一緒に帰る、じゃあな、大和、タケ!」
そう言った蓮は、2人にまたもや笑顔を見せた。
「おー!」
「また明日なー」
「はいよ~、いこう、姉ちゃん」
「いいの?話しなくて」
「うん、また明日話できるし」
「…そう」
不思議に思った。
家では生意気で、大人びていて、だけど私に遠慮をする蓮は、
学校では普通の男だったことに。
「蓮の姉ちゃん、すげぇ美人じゃね?」
「思った。まあ蓮もイケメンだしな」
「いいなあ、俺の姉ちゃんもあんな風になってほしいわ」
「あー、タケの姉ちゃんこの前駅でみたけどすげぇ男っぽかった」
「だろ?家ではパンイチだぜ?ありえないっつーの。まじで蓮の姉ちゃん羨ましい」
「あーでも、蓮の姉ちゃんって、岡田海翔って人と付き合ってんだろ?」
「岡田って、あの岡田?」
「その岡田だろ」
「えー、まじで?」
「蓮がこの前言ってた」
「でも納得かも、美人だもんな、蓮の姉ちゃん」
声の大きい二人の声は、少しだけ離れた階段近くまで聞こえていた。
今の中学生でも知られている岡田。
………岡田って、結構有名なんだ。
っていうか、
私と岡田が付き合っているのを言ったのは蓮ってことだよね?
友達同士の話題に、私が出たんだ。
「なに、姉ちゃん。考え事?」
ぼーっとしている私に、蓮が話しかけてくる。
「ううん、何でもない」
蓮がする会話の中に私の話題が出たことが嬉しいって思ったのは、心の隅にしまっておこう。
『あなただってそうでしょ?!どうして私ばっかり言われないといけないの!』
『お前が子供の面倒を見ずに遊んでるから!』
『じゃああなたは残業って嘘ついて言いと思ってるの?!』
『付き合いだから仕方が無いだろう!!』
───ポチャン、と湯船の中に滴が落ちた。
湯船につかりながら両親の会話を思い出す。
思い出すのは両親の言い合いばっかりで、その光景を見ていた小学高学年だったその時の私は、もうこの人たちは私達を置いていくだろうと思っていた。
離婚するだろうと思っていたけど、お父さんが『世間体が』どうたらって言って、離婚はしていないけれど。二人とも家にいなければ、結局同じことだと思う。
「姉ちゃん、パパとママ、帰ってこないね」
まだ離婚や浮気っていう言葉を知らない低学年の蓮。
「でも姉ちゃんがいるから寂しくないや」
「うん。ずっと一緒にいようね」
随分昔の連との口約束。
連は、覚えているのだろうか?
いつも7時に目覚ましを合わせているけど、今日はいつもより一時間早い6時に起床。
リビングにいけば誰もいなくて、まだ連は眠っているらしい。
7時過ぎごろリビングの扉が開き、「なにしてんの?」とまだ寝癖がついている蓮が入ってきた。眠りが覚めていない連は、こっちに近より大きな欠伸をする。
食器を洗いながら、目線で合図をした。
「お弁当、それ蓮の分ね」
「え?俺の?」
目を見開いた蓮は、どうやら目が一瞬にしてさめてしまったらしい。
風呂敷に包まれた弁当を持ち上げ、「何で急に?いつも購買なのに」と不思議そうに言う。
「早く起きちゃったから」
体調管理のため、なんて言えるわけがない。
「ふうん?ありがとう、なんか嬉しいなこういうの」
私には父も母もいるけれど、こうして会話が出来るのは蓮だけなんだと、改めて実感した。
本当に姉失格なのかもしれない。
だって梶山に言われなかったらこうやって弁当を作る事なんて無かったんだから。
「あ、そうだ。火曜日の5時から面談になったから」
「三者面談?」
「うん、ごめんな」
別に謝らなくてもいいのに。
蓮は蓮で、迷惑をかけないようにと思っているのだろうか。
案の定というか、やっぱりなーというか、遅刻を滅多にしない篠田の姿は教室には無かった。
うっすらと教室の床には血の跡があり、これは鈴宮の血なのか、それとも篠田の血なのかとぼんやりと考え込んでいた。
鈴宮は岡田に目をつけられて、みんなから暴行されているけど学校を休むってことをしない。
けれども篠田は目をつけられてから1日で学校を休んだ。
どうしてこうも違うのだろうか?
「なーに考えてんの、次体育だよ」
口元をマスクで隠し、まだ化粧をしていない綾。
そういえば「体育って汗かくじゃん?それで崩れるから」と、言っていたような気がする。
「やめとく、教室にいるね」
「おっけ、じゃあまた後で~」
勉強は結構好きだったりする。だけど体育だけは好きにはなれない。多分、小学校の時から運動音痴だから、やる気にならないだけだと思うけど。
球技は目が追いついてくれないし、徒競走だって足が思うように動いてくれない。
だから運動が好きな人とか、プロで活躍している人は凄いと思う。だって私には到底出来ない事だもの。
何て事を考えながら、私の視線は教室の端の方を見ていた。そこには俯いて、意識があるか無いのか分からない程浅い呼吸をしている男がいた。
教室に二人きりなんて、いつぶりだろうか?体育の時だって彼はいつも授業に出てるのに。起き上がれないほど、参ってしまっているのだろうか?
「大丈夫?」
と、近寄り声をかければ、男はピクリと肩を動かして俯いていた顔をゆっくりとあげた。
なんだ、意識を失ってたんじゃ無かったんだ。
「鈴宮。保健室行く?」
綺麗な二重の目と目が合ってしまった。色素が薄いのか、少し瞳の色が茶色っぽい。
「…大丈夫だよ」
アザだらけの顔を動かして、笑顔を作る鈴宮。鈴宮にとって学校は地獄なような場所に違いないのに、こうやって穏やかな笑顔を作る事が出来るのか。
どうして笑えるの?
どうして学校にくるの?
どうして岡田から逃げないの?
「ならいいけど、少しはあいつらに歯向かっても良いんじゃない?」
「…そんな事できない」
「どうして?やり返せばいいじゃん。あいつらが一方的にするのはおかしいよ」
「それは違うよ、高橋さん」
何が違うの?
「鈴宮も岡田が怖いの?」
「そういうのは思ったことないよ、海翔は…海翔は俺の為にしてくれてるんだ」
「え?」
俺の為?
それって、どういうこと?
それに"海翔"って…
呼び捨て?
鈴宮が岡田のことを?
呼び捨てができる仲っていうわけでも無いのに?
まさか鈴宮自身が岡田に苛めてくれって言ったとか?
「鈴宮ってMなの?」
「それも違うよ」
「違うの?よく分かんないね」
「うん…、っていうか高橋さん、俺と喋っていいの?もし誰かに見つかったら高橋さんまで」
「大丈夫だから」
もし誰かに見られて岡田にチクられたとしても、岡田は私には優しいし、絶対に怒らない。
あ、でも
その分鈴宮へ目を向けられるかも。
「これ、使って。岡田にバレちゃ駄目だよ。置いとくから」
「え、高橋さん…」
鈴宮の近くの床の上に置いたポケットティッシュとハンカチ。
「血出てるから、ティッシュでふいて。ハンカチは濡らした方がいいかもね」
そう言い残し、何か言いたげな鈴宮を無視して教室を出た。
クラスの仲間を使い鈴宮を虐める岡田。そして「俺のために」と、岡田の事を「海翔」と呼び捨てにする鈴宮。
二人の関係は何?
また一つ、疑問が増えた。
唯一不良グループの中で鈴宮の事を虐めていない梶山は、何か知っているのだろうか?
「第一希望の高校は今の学力でしたら大丈夫でしょう。一応念のために私立の高校も7月までに一緒に決めてください」
久しぶりにした母校。
蓮のクラスの担任である若い男の教師は、見たことが無い教師だった。
去年か今年に赴任してきたのだろう。
三者面談はどうやら蓮の受験の話についてらしい。
「はい、両親にもそう伝えます」
伝える事なんて、これっぽっちもないけど。どこの高校へ行っても、あの人達は何も言わないだろうし。
「はい。よろしくお願いします。
それにしても、高橋にこんな美人なお姉さんがいたんだな」
最初は私に、間を空けて蓮へと爽やかな笑顔を向けて言う担任。
「…ん、まあ」
「お姉さんも、忙しい中ご両親に変わって今日はありがとうございました」
「いえ、よろしくお願いします」
「こちらこそ。お姉さんはここの卒業生でしょう?時間がありましたらゆっくりしていってくださいね」
「はい」
ゆっくりとは?
ああ、母校だから
"懐かしい"という雰囲気を味わって、ということか。
三者面談が終わり、教室を出ると他のクラスでも三者面談をしているのか、何人か生徒と保護者が廊下で順番待ちをしていた。
生徒は生徒同士、
保護者は一人で携帯をいじっていたり、顔見知りなのか保護者同士挨拶をしている人達もいた。
その生徒同士で喋っていた男の子達は、蓮が教室から出てきたことに気づき蓮の名前を呼んだ。
「どうだった?面談」
「つーか、蓮っとこって姉ちゃんが来てくれたの?いいなあ、俺んとこ母さん先生と馬鹿みたいに喋るから恥ずかしいんだよなー」
どうやら蓮の友達らしい。
見た事は無い、っていっても、蓮の友達で知っているのは梶山の弟の悠人だけだけど。
「普通だった、私立だけ早く決めろってよ。
そういえば俺がお前ん家行った時すげぇ喋りかけて来られたわ。大和(やまと)の母さん」
「げー、俺決まってねぇし、絶対言われるじゃんそれ」
「だろー?。え、二人とも決まってねぇの?じゃあ俺と一緒にしようぜ」
「ばか、大和は私立男子校だろ?無理無理、絶対無理」
「大丈夫だタケ、お前共学でもモテねぇから。なあ蓮」
「確かに」
「うわ、うっぜぇお前ら!」
3人の会話を聞きながら、ぼんやりと蓮の顔を見ていた。
蓮って友達の前ではこうやって笑うんだ、と。
こんなにもずっと笑っている蓮を見るのは久しぶり…、かもしれない。
最後に見たのは、私と蓮が小学生のころで、確か悠人と蓮が校舎内を走り回っている時だったような?
「蓮、私先に帰るね。」
蓮に話しかけると、大和とタケと呼ばれた男の子二人はこちらを向いた。
「待って。俺も一緒に帰る、じゃあな、大和、タケ!」
そう言った蓮は、2人にまたもや笑顔を見せた。
「おー!」
「また明日なー」
「はいよ~、いこう、姉ちゃん」
「いいの?話しなくて」
「うん、また明日話できるし」
「…そう」
不思議に思った。
家では生意気で、大人びていて、だけど私に遠慮をする蓮は、
学校では普通の男だったことに。
「蓮の姉ちゃん、すげぇ美人じゃね?」
「思った。まあ蓮もイケメンだしな」
「いいなあ、俺の姉ちゃんもあんな風になってほしいわ」
「あー、タケの姉ちゃんこの前駅でみたけどすげぇ男っぽかった」
「だろ?家ではパンイチだぜ?ありえないっつーの。まじで蓮の姉ちゃん羨ましい」
「あーでも、蓮の姉ちゃんって、岡田海翔って人と付き合ってんだろ?」
「岡田って、あの岡田?」
「その岡田だろ」
「えー、まじで?」
「蓮がこの前言ってた」
「でも納得かも、美人だもんな、蓮の姉ちゃん」
声の大きい二人の声は、少しだけ離れた階段近くまで聞こえていた。
今の中学生でも知られている岡田。
………岡田って、結構有名なんだ。
っていうか、
私と岡田が付き合っているのを言ったのは蓮ってことだよね?
友達同士の話題に、私が出たんだ。
「なに、姉ちゃん。考え事?」
ぼーっとしている私に、蓮が話しかけてくる。
「ううん、何でもない」
蓮がする会話の中に私の話題が出たことが嬉しいって思ったのは、心の隅にしまっておこう。