虐めとは何なのか、と考えたことがある。



私が思うには、自分より弱い立場にいる者へ一方的に暴力や精神的ストレスを与えることだと思う。

一生消えない傷をつくり
心への闇もできる。



それがいけないことだと、被害者が可哀想なんて、これっぽちも思った事はない。

だって被害者にも、虐められる理由があると思うから。加害者だって、きっと理由が無かったら虐めていないだろうし。



「キモいんだよ鈴宮!!」



だからといって、加害者の味方ってわけでもない。




「まじで死ねやお前」



ただ、いま見ている光景が

とても馬鹿馬鹿しく感じるだけ。


「まーた始まったね」

机の上に鏡を置き、まつ毛にマスカラを塗りながらポツリと呟いた綾(あや)が言う。

スッピンのときよりも倍の長さと太さになっているまつ毛。どんどん目の回りが真っ黒になっていく。



「いつもの事でしょ」

返事をしながら、黒板に書かれていく文字をノートに写す。ちなみに今は授業中で、休み時間では無い。


英語の教師である先生は、教室で暴力がおきても、化粧をしている生徒がいても、ゲームをしている生徒がいても、寝ている生徒がいても、飲食をしている生徒がいても、止めようとはしない。

何も喋らず、もくもくと黒板に文字を書いていくだけ。


きっと、生徒の暴力がふりかかってくるのを恐れているのだろう。



英語の教師だけでなく、ここいる学校の教師は全員そう。偏差値が低い、不良ばかり集まる高校では、教師は何もしようとはしない。


「だって岡田やりすぎじゃん?そろそろ鈴宮死んじゃうんじゃない?」


岡田とは、鈴宮を虐めているリーダー的存在。
ちらりと騒がしい方を見れば、床にうずくまっている鈴宮のお腹に、岡田が蹴りを入れているところだった。

苦しそうに息をしている鈴宮。
もう学ランは埃まみれになり汚れている。いや、汚れているのは今日に始まったことではないけど。



見たのはほんの2秒程だけで、すぐに視線を黒板へと戻した。


「止めてくれば?」

「やだなあ、冗談やめてよ。私に死ねって言ってるの?それに私より長閑(のどか)の方がいいでしょ。岡田の彼女なんだから」


にっこりと笑った綾は、やっぱり今日も化粧が濃い。





「止める理由が無いよ」


チャイムがなり、書き終えたノートを閉じた。
黒板の前にいた教師は、いつのまにかもう教室にはいなかった。



加害者と被害者。

何かの出来事がなければ、二つの名は生まれることはない。
岡田は鈴宮に暴力をふるう。
だからこんな事になってしまった原因があるはずなのに、私は虐めになった原因を知らない。

なぜ岡田は鈴宮を虐めるのか。

その理由は知らないけれど、別に知りたいって程でもない。ただやっぱり、馬鹿みたいと思うだけ。



六時間目の英語の授業が終わり、ぞろぞろと生徒達が教室から出ていく。先程まで化粧をしていた綾も「デートなの!」と、バタバタと急いで帰っていった。



「長閑、帰ろうぜ」

先程まで鈴宮に暴力をふるっていた岡田は、笑いながら私に近づいてきた。機嫌がいいらしい岡田は、自然に私の腰へと腕をまわす。
ちらりと岡田の方を見れば、視界の中へ床に蹲っている鈴宮の姿が目に入った。動いていない、どうやら気絶してしまったらしい。


「ノート提出日だから、先に行ってて」

今日も岡田の家に行くんでしょ?と、呟く。


「はあ?ノートとか要らねぇだろ」

「いるよ」

「じゃあ下足室で待ってる」

「分かった」

「すぐ来いよ」


チュ…と、頬にキスをしてきた岡田は、一緒に鈴宮を虐めている集団…。不良たちと教室から出ていった。



思わず、ため息が出そうになった。



岡田と付き合って2年程がたつ。

その期間中一回も喧嘩をしたことがないし、暴力だってふるわれた事はない。
キレやすく、気にくわないことがあれば、友達だって暴力をする対象に入る。


それなのに岡田は私にだけは優しい。
私がどれだけツンツンしていても、「イヤ」と否定しても、キレる事はない。
私にだけ、甘い岡田。




「先生、これ、ノート」


職員室に入れば、教師は驚いたように私を見た。


「あ、ああ…。そうか、今日だったな」


教師はノートを受け取り、机の上に置いた。


「高橋だけだ、こうやってノートを提出してくれるのは」

「そう」


まあ、そうだろう。
ノートを書いている生徒なんて、見たことが無い。


テスト期間だってみんな寝てるし。




この学校は、授業さえきちんと出ていれば内申点で卒業できるから。



「ひとつ聞いていいか?」
 
帰ろうとした私を引き留めた教師は、恐る恐る口を開く。


「高橋は岡田と付き合ってるんだろう?暴力とか…されていないのか?」


鈴宮みたいに。って?
なに、私の事心配してんの?

岡田が私に暴力?有り得ないわ




「それを聞いてどうするんです?」 
  
「いや、その、なんだ…」

「もし私がされていると言っても、先生は対処出来ないでしょう?……ご心配なく、岡田は優しいですよ。私には。失礼します」


眉間にシワを寄せている教師に軽く頭を下げて、職員室から出た。
もう廊下には生徒一人いなかった。


岡田が待っている下足室へ行く前に、トイレに立ち寄ろうと思い廊下を歩く。私の教室と職員室は近いため、トイレの距離もそれなりに近い。


用をすませ、トイレから出る。



トイレから出た直後、視界に入ってきた学ランの男に一瞬だけ体がピクッと動いた。
そこには廊下の壁に手をつきながら、痛む体を支えて歩いている鈴宮の姿があった。相当痛いのか、歩くたびに顔が歪んでいる。

気絶してたの、さっき起きたのか…。


手を拭いていたハンカチをポケットの中に入れて、私は足を進ませた。


別に無視しとけばいいのに。
なぜか私の足は鈴宮の方へと進んでいた。


「鈴宮」


誰もいない静かな廊下。
小さな声なのに、意外にも廊下に響いた。


右頬に大きなアザがある鈴宮は、ゆっくりとこちらを向いた。声には出していないけど、軽く目を見開いてることから、私が声をかけたのを驚いているらしい。


そりゃそうか。
虐めの主犯である男の彼女なんだから。



「まだ帰らない方がいいよ、下足室に岡田がいるから。10分ぐらい待った方がいいかもね。…じゃ、それだけだから」


自分でも、なぜ鈴宮を庇う台詞を言ったのか分からなかった。
もしかすると、心のすみに
同情という感情があったのかもしれない。









「おせぇよ、長閑」

「ごめん」

「ほら、帰るぞ」


手を繋ぎ、甘い笑顔をする岡田は、
本当にさっきの岡田なのだろうか?




人間っていうのは、良く分からない。





「ん……、待って」

「待たねぇよ」

ベットの上で手を絡められ、噛みつくような優しいキスが落とされる。シトラスの匂いがする岡田の部屋は、もう何回来たか分からないほど。


チュッとリップ音を残したあと、頬から首筋へとキスが移動する。こそばくて、ぞくぞくして、吐息が出そうになる。



「岡田…」

「そろそろ下の名前で呼べよな」

「だってずっと岡田だったから」

「まあ、そうだけどよ。名前で呼んでほしい」

「海翔(かいと)って?」

「……急に言われると照れんな」


顔を赤くさせる岡田は、再び唇にキスを落としてきた。甘い舌使いは、感覚を鈍らせていく。

頭を撫でてくる手は、暴力をしている手なのに、とってもとっても優しい。



服を脱がされ、甘い吐息が部屋に響く。



岡田の膝の上に対面するように座り、私の中に入ってくる岡田のモノに腰が震えた。
無意識に岡田の首筋に顔を埋めて、「あ…ッ…、ん…」と信じられないほどの甘い声が出てしまう。


耳を舐められながら
ズスッと、下からの突き上げの振動で、岡田への抱きつき度が増した。


「や…だ、だめ………」


動かさないで………。
今動かされると体がまた可笑しくなりそうになる。



「長閑さ、いつも可愛いけど。感じてるときの顔が一番やべぇな」

「っ…あ」


止まらない突き上げ。
私がイッているのも岡田は分かるはずなのに、止まってはくれない。

正常位にされ、さっきとは違うところに当たり、また岡田に鳴かされる。



「…っ…」

性欲が強いらしい岡田は、2日に1回は必ず私を抱く。ほんとこっちが体力を失うほどに。



岡田に抱き締められながら、瞳を閉じる。
もう指先ひとつ動かすのも億劫だ。まだ中に岡田のモノがあるみたい…。


「お前、ほんと可愛いよな」

「岡田だけだよ、そう言うの。みんな言ってこないし」

自分でも、可愛いとは思った事はない。

 
「そりゃ俺がいるからな、他の野郎が言ったら殺してやるよ」

「……」


それは鈴宮みたいに?



「にしても、長閑、最近めっちゃイクようになったよな」

抱き締めている岡田の手は、背中から下へと進んでいき。まだ乾ききっていないあそこの部分は、すんなりと秘部の中に入っていく。


「ちょ、もう無理…」


「イクの覚えてから、すげぇもんな」


動く岡田の指は、激しい動きでは無いものの、中で二センチほどゆっくりと往復し、気持ちよすぎてまた腰が震えてくる。


「っ……ん、おか、だ…」

「すげぇ可愛い、二回戦な、スローでもしようぜ」


ゆっくりと指を抜いた岡田は、また覆い被さってきて、ゆっくりとモノを入れてきた。さっきの激しい行為とは違う、ゆっくりで、揺りかごに揺られているような感覚に陥る。


「…………っ……」


一定の緩い速度で動き、前屈みにかった岡田は、動きに合わせるように優しいキスをした。




私にsexを教えてくれたのは、紛れもない、岡田海翔だ。