カタンコトンと田園風景の中を走る電車に揺られながら、のぞみは車窓を流れる景色を眺めている。
 抜けるような空の下、田は黄金色に輝いて、もう秋の景色だった。
 あやかしの都がある街までは、電車で行くと四時間ほど。のぞみは朝早くにアパートを出た。
 都へ行くというメモはちゃぶ台に置いておいたから、紅にはもう伝わっているはず。
 のぞみの胸がちくんと痛んだ。
 紅の反対を無視して勝手に家を出てきたのぞみを、彼はどう思っただろうか。
 自分が意地になっているというのはわかっていた。危険だという彼の言葉が正しいということも。
 でももう待つだけは嫌だという思いにのぞみは突き動かされていた。
 あやかしの中での自分の居場所を守ることも、結婚のことも、受け身なままは嫌だった。
 なんの力もないくせに、自分でなんとかしたいだなんて、無謀としかいいようがない。
 紅はきっとそう思ったのだ。
 彼からしてみれば、当然だ。
 だとしても、とのぞみは思う。
 だとしても、少しくらいはこの気持ちをわかってくれたっていいじゃないか。
 なにもあんな風に頭ごなしに言わなくたっていいのに……。
「紅さまの、わからずや」
「のぞみの安全には替えられないからね」
 ぽつりと呟いたひとり言に、思いがけず返事をされて、のぞみはびっくり仰天してしまう。
 ふたりがけの隣の席に、いつのまにか紅がいた。
 茶団子にかぶりついている。
「こ、紅さま⁉︎」
 思わず大きな声を出してしまってから、のぞみは周りを見回した。
 幸いにしてお昼前のこの時間はガラガラで、乗客の中に、のぞみたちを気にするような人はいなかった。
「どどどどうして……!」
「のぞみをひとりで行かせるわけにいかないじゃないか」
 憮然として紅は茶団子を食べている。
 その言葉にのぞみは少し身構えた。
 彼が自分を連れ戻しにきたのかと思ったからだ。
 でもどうやらそうでもないようで、彼は持っていた茶団子をのぞみの方へ差し出した。
「食べる?」
「あ、ありがとうございます」
 のぞみが団子を受け取ると、彼は車窓へ視線を移し、目尻の赤い切れ長の目を細めた。
「都まで電車で行くなんて初めてだ。やたらと時間がかかるけど、景色を見ながらのんびり行くのも、悪くないかもしれないね」
「紅さま……」
 のぞみはホッと息を吐く。
 後先を考えずアパートを飛び出したけれど、本当はひとりで行くことに、すごく不安を感じていた。
「ふぶきと話をしたら、大神に会う前にすぐに帰るからね」
 釘を刺すように言う彼の言葉に、少しだけ引っ掛かりを覚えながらも、のぞみはこくんと頷いた。
「はい、ありがとうございます」