しばらく雨は降らなかった。わたしはほとんど寝て過ごした。

眠りながら夢を見ていた。

お店はまだカフェじゃなくて古いお菓子屋さん。おじいちゃんとおばあちゃん、それに亜子ちゃんの3人が住んでた。

その日は亜子ちゃんのお兄さんが遊びに来てて、亜子ちゃんはとても嬉しそうだった。

「お兄ちゃん、クリームソーダ!」

コウイチロウの隣で笑う亜子ちゃん。

あぁ、そうだ。亜子ちゃんはコウイチロウの妹だ。

コウイチロウがカウンターの奥にいるおじいちゃんに、クリームソーダとアイスコーヒーを注文してる。

二人は仲良く並んで飲み物を飲み、時々笑い声をあげて楽しそうにしている。

わたしは散歩の途中にそれを見てる。

いつのまにか、コウイチロウの隣にいるのはわたしになってた。

コウイチロウは遠くを見てる。もう会えない亜子ちゃんを思ってる。

亜子ちゃん、寂しそうに猫になりたいって言ってたのは何故?

わたしはずっと人間の女の子に憧れてたよ。亜子ちゃんが急にいなくなって、わたしは人間になって亜子ちゃんのこと忘れてた。

もしかして亜子ちゃんがわたしの願いを叶えてくれたの?

亜子ちゃんは猫になったの?

はるとの友だちが言ってた、コウイチロウの妹が死んだって。わたし今まで忘れてた。人間になれたのが嬉しくて、夢中で、コウイチロウのなくしたものに気付かなかった。

死ぬって、もう二度と会えなくなるってことなんだね。

ごめんね、コウイチロウ。

あんな風に笑わせてあげられない。でも好きだよ。