「まるで駄々っ子ですな」と篁が呆れたようにため息をつく。
「そう言うな、いまだ慣れない環境で不安なのだろう」
「物の怪もまだ宮中のどこかにいるし、姫の協力は不可欠だ」と唯泉が言った。
「篁、姫が言っていたこと。調べておけよ」
 不満げに口元を歪ませた篁は、しぶしぶ「はい」と頷く。

 彼らの励ましで元気を取り戻した彼女が、皇子の衣から感じた違いを指摘した。
 同じ愛情でも一度目と二度目の衣には、違いがあったという。
『唯泉さまが感じていたとおり、物の怪は皇子を守っていたのではないかと思うのです。最初に皇子がお倒れになったとき、何か起きませんでしたか? たとえば匙がどうにかなったとか』

 唯泉が目の端で篁を睨む。
「そもそも、検非違使はなにをしていたのだ。匙くらい最初に調べたのではなかったのか?」
「はっ、申し訳ありませぬ」
「申し訳ないと思うなら、ぶつくさ言わず姫の役に立て」
「はっ」
 唯泉に厳しく指摘され、篁は大きな体を小さくしながら恐縮至極であった。