「篁、姫の前で殿下はやめろ。ますます心を閉ざされてしまう」
「はあ。しかし――」
それではあの女がますます図に乗りますぞ、とは言えず篁は口ごもった。
「清らかな瞳をしていたのだ」
「え? 祓姫がですか?」
「ああ。ついぞこれまで見たこともないほど、美しい目をしていた。私は姫に希望を託すと決めたのだ」
そうとまで言われれば受け入れるしかないが、篁とて闇雲に信じるわけにはいかない。
「物の怪の仕業でないと、唯泉と同じ意見でしたね。唯泉から聞いたのでしょうか」
「それはないだろう。唯泉はそれほど親切な男ではない」
声をかけたのは唯泉や祓姫だけではない。宮中の一大事とあって国中から様々な者が集められた。中には易者や占い師もいて、話を聞く度に唯泉を同席させた。
彼らは様々なことを言う。紅い衣を着せるとよい、西に向かって米粒を撒くとよいなどわけのわからない話もあった。
唯泉は何を聞いても目をつぶって全く関心を見せなかったが、ある占い師の『祓姫なら何かわかるかもしれませぬ』という発言だけには反応したのである。
今日も唯泉は自分から祓姫に会いたいと言ってきた。話し込んでいったからには彼女を気に入ったのだろう。
「それより篁、今の話をどう思う?」
「はあ……。やはり物の怪は関係ないのでしょうか。唯泉は『毒じゃないのか』などと恐ろしいことを言いますが、毒見係も、同じものを召し上がった皇女さま方もなんともないのです。やはり物の怪以外にありませんよ」
顔をしかめた篁は身振り手振りで力説する。
「いるんじゃないですか? 別の物の怪が。唯泉だって物の怪の全てが見えるわけじゃないですって」
煌仁は篁をぎろりと一瞥する。
「唯泉の耳に入ったらどうする。他の陰陽師には祓えなかったのだぞ」
「はあ、それはそうですけど」
今、宮中は混乱の最中にある。祓姫の力がいかほどのものかはわからないが、陰陽師だろうが占い師だろうが、機嫌をとってでも手を貸してもらうしかない。それは篁にもわかっている。わかってはいるが。
「とにかくひとつずつ見ていくしかあるまい。明日にでも麗景殿に行くと姫に伝えておけ」
「一緒に行かれるのですか?」
「行くしかないだろう?」
いきなりわけのわからぬ女が出てきて、はいそうですかと女御が受け入れると思うのか。
視線に込めた説教を、渋々ながら篁は受け取った。
「はぁ」
「はあ。しかし――」
それではあの女がますます図に乗りますぞ、とは言えず篁は口ごもった。
「清らかな瞳をしていたのだ」
「え? 祓姫がですか?」
「ああ。ついぞこれまで見たこともないほど、美しい目をしていた。私は姫に希望を託すと決めたのだ」
そうとまで言われれば受け入れるしかないが、篁とて闇雲に信じるわけにはいかない。
「物の怪の仕業でないと、唯泉と同じ意見でしたね。唯泉から聞いたのでしょうか」
「それはないだろう。唯泉はそれほど親切な男ではない」
声をかけたのは唯泉や祓姫だけではない。宮中の一大事とあって国中から様々な者が集められた。中には易者や占い師もいて、話を聞く度に唯泉を同席させた。
彼らは様々なことを言う。紅い衣を着せるとよい、西に向かって米粒を撒くとよいなどわけのわからない話もあった。
唯泉は何を聞いても目をつぶって全く関心を見せなかったが、ある占い師の『祓姫なら何かわかるかもしれませぬ』という発言だけには反応したのである。
今日も唯泉は自分から祓姫に会いたいと言ってきた。話し込んでいったからには彼女を気に入ったのだろう。
「それより篁、今の話をどう思う?」
「はあ……。やはり物の怪は関係ないのでしょうか。唯泉は『毒じゃないのか』などと恐ろしいことを言いますが、毒見係も、同じものを召し上がった皇女さま方もなんともないのです。やはり物の怪以外にありませんよ」
顔をしかめた篁は身振り手振りで力説する。
「いるんじゃないですか? 別の物の怪が。唯泉だって物の怪の全てが見えるわけじゃないですって」
煌仁は篁をぎろりと一瞥する。
「唯泉の耳に入ったらどうする。他の陰陽師には祓えなかったのだぞ」
「はあ、それはそうですけど」
今、宮中は混乱の最中にある。祓姫の力がいかほどのものかはわからないが、陰陽師だろうが占い師だろうが、機嫌をとってでも手を貸してもらうしかない。それは篁にもわかっている。わかってはいるが。
「とにかくひとつずつ見ていくしかあるまい。明日にでも麗景殿に行くと姫に伝えておけ」
「一緒に行かれるのですか?」
「行くしかないだろう?」
いきなりわけのわからぬ女が出てきて、はいそうですかと女御が受け入れると思うのか。
視線に込めた説教を、渋々ながら篁は受け取った。
「はぁ」