依楼葉は、一旦部屋に行き、文を置くとお湯殿に行った。

帝がお湯殿に入られる前に、一度は温度を確認しているが、気を使って多少熱くても、”いい湯だった”と言うかもしれない。

その為に、お湯殿に入った後も、依楼葉は温度を確認していた。


その日も、お湯殿の温度は、入る前とあまり変わっておらず、依楼葉はほっとしながら、帝の元へと参った。

帝が一つずつ、文書を読み裁可を下す。

最後に依楼葉は、夏の右大将から預かった文書を、帝に渡すつもりだった。


「帝、これを……」

文書を渡そうとして、手元を見てハッとした。

夏の右大将から預かった文書が、そこにないのだ。

もしかしたら、途中で落としてきたのではないか。

どこで?

廊下で?

お湯殿で?

依楼葉は、自分が通った場所を、思い返した。


「どうした?尚侍。」

帝は、心配そうに依楼葉を見つめた。