「本当の事を言いますと、この絵巻は、四面楚歌という物語の絵巻なのです。」

「四面楚歌の?珍しい絵巻だね。見せてごらん?」

帝に手を差し出され、桜子はその絵巻を、帝の手に乗せた。

それを広げた五条帝は、興味深い目で、それを隅から隅まで見渡した。

「ああ、これはいい絵巻だね。」

「有難う存じます。」

桜子は実家から、この絵巻を持って来て貰ってよかったと思った。


「そうだわ。その隅に書いてある姫君を、ご存知でしたか?」

「この姫だか。そうだね。四面楚歌と言う事は、楚の項羽に付き添っていたと言う虞美人かな。」

「恐れ入りました。お上には、何も敵いません。」

「そのような事はないよ。私にだって、まだまだ知らない事はたくさんある。」

気を良くした桜子は、虞美人草の話をした。

「……それは知らなかった。藤壺の女御は、素晴らしい。」

帝に誉められたのは、本当に久しぶりの事だった。