「中納言……」

もう依楼葉は、女だと言う事を、帝に知られてもいいと思った。

ただこの一瞬だけでも、心を通わせ、胸がときめく想いをしたのであれば。


「お上。私はそろそろ、勤めに戻ります。」

依楼葉は、自分からその恋を、断ち切った。

「ああ、そうか。」

依楼葉は、一礼をすると立ち上がり、帝に背を向けた。


後ろから、帝の視線を感じる。

ああ、これでいいのだ。

このまま、男の成りのまま、時々帝に会って、心を通わせる。

そんな人生があっても、いいのだと依楼葉は思った。


ただ父に言っておいた方がいいだろう。

帝には、女だと言う事が、知られたと。


一つだけ気がかりなのは、自分が女だと知れば、左大臣家に跡継ぎがいなくなり、家が危ないのではないかと言う事だ。

それを含めて、父と話し合いをしなければ、ならないであろう。