本当は、指切りなんていらない。確定した約束は欲しいけれど。
それよりもずっと、その左薬指に私の指を絡めたかった。できれば付け根に、私の跡を付けたかった。

けれどきっと私が態度に示したら、貴方に何でもないような表情を浮かべられたあとに、結局は拒否をされてしまう。


彼女を想う貴方の言動だけが疎ましい。そんな鬱屈でさえも憶え飽きている。


「約束ね?」
「うん、約束した」


愛しい温度が私の小指に結びつく。
込められていない力加減を配慮だと感じたから、離れていった温度がすぐに恋しくなった。


シルバーリングが放つ鈍い光よりも、くすんでいても構わないから。


「私以外と約束しちゃダメだよ」
「こんな約束、他にする子いないよ」


この狭い部屋でまた会うことを誓う、二人の約束。

独占欲に塗られながら、嫉妬心も執着心も、貴方に向ける全ての感情をひた隠しにすると、貴方の大切にしてやまない幸せを壊さないことを誓う、私一人の約束。



だから、赤い糸なんて見えないけれど。



こうして安易に小指を絡ませる貴方の相手は、どうか私だけであって欲しいと願う。


「気をつけて帰ってね」


せめて貴方の左小指だけでも、私一人のものがいい。





【赤い糸なんて見えないけれど】fin.