その夜、斎は床に就いてからもなかなか寝付けず、物思いに沈んでいた。
 こんな時思い出すのは、決まって一羽のある雀のこと。

 かつて帝が入道の宮と呼ばれていた頃、一羽の雀を飼っていた。寺の軒下に落ちていた雛をたまたま拾って、宮が世話をしたのだ。宮は昔から何事にも頓着しない――悪く言えば万事に興味関心が薄い人だったので、それは彼にとってとても珍しいことだった。

 けれど入道の宮は、拾った雀を籠で飼うことはしなかった。飛ぶのが下手なのを心配して風切り羽根を切りはしたが、部屋の中に止まり木と餌場をひとつ置いただけで、あとは自由にさせていた。
 斎にはそれが不思議だった。肩や腕に止まるくらいなついて、餌をねだって可愛らしく歌う小鳥。いなくならないか心配じゃないのか、あるいはひとところに留めてもっとじっくり愛でてみたくはないのかと。

(セイ)、私はね。狭い籠に押し込められた小鳥より、限られた自由でも懸命に羽ばたきさえずる鳥が好きなんだ”

 宮の口から何かを“好き”だなんて言葉を聞いたのは、あの時が最初で最後だ。幼い斎は雀に嫉妬すらした。

 けれど今になって思う。
 あの小鳥は宮自身。籠に入れられなかった雀には、入道の宮の願いが込められていたのだと。
 宮には自由がなかった。翼がなかった。狭い籠に押し込められる不幸を知っていたから、せめて自分の目の届くものには同じつらさを味合わせたくなかったのだろうと。

 五年前、花琉帝として即位が決まった時に彼は斎にこう言った。

「帝だなんて(がら)ではないけど、これも何かの縁であろう。私はこの先、私のようなつまらぬ人生を過ごす者がひとりでも減るように、善き為政者として振る舞うつもりだ。だから斎――」