でも、父を探している時に見かけた、彼とのやり取りに何かヒントがあるのかもとわたしは思った。

『ううん、別に意味はないの。気にしないで』

「……そう?」 

 母はとっさにごまかしたけれど、わたしは何だかモヤモヤした。本当に、母と彼はあの時、どんな話をしていたんだろう、と。
 それは今でも謎のままだ。彼はわたしがいくら訊いても教えてくれない。

「――ねえママ、パパは今どうしてる? 具合は?」

 わたしは電話をかけた本来の目的を思い出した。母のこんな与太(よた)(ばなし)を聞くために電話をしたわけではないのだ。

『そうねえ……。家に帰ってすぐはだるそうにしてたけど、今は寝室で休んでるわ。さっき様子を見てきたけど、顔色も少しよくなってきてるみたい』

「そう。……それならいいんだけど」

『……絢乃? 何か心配なことでもあるの? パパの容態が心配なのは分かるけど、大丈夫よ』

 わたしの声が沈んでいたのを、母は電話越しに耳ざとく察したらしい。励ますように、温かな声が聞こえてきた。
 ……言わなきゃ。彼がわたしに提案してくれたことを。――わたしは意を決して、母に切り出した。

「あのね、ママ。パパのことで大事な話があるの。帰ったら、聞いてくれる?」

『大事な話、って……? 電話じゃダメなの?』

 母が戸惑っているのが、電話越しにわたしにも分かった。でも、ただごとではないということは母にも伝わっていたらしかった。

「うん、電話じゃちょっと……。それに、できればパパにも聞いてほしい話だから」

『……そう、分かったわ。じゃあ、待ってるから。帰ってきたら詳しく聞かせて。桐島くんにもよろしく言っておいてね』

「うん。じゃあ切るね」

 終話ボタンをタップすると、わたしは大きく息を吐いた。

「――お母さまは、何ておっしゃってたんですか?」

 運転席から、彼が心配そうに訊ねてきた。スピーカーフォンにしていなかったので、母の言った内容は分からなかったらしい。

「あ……、『帰ってきたら詳しく話聞かせて』って。パパは今のところ、顔色もよくなってきてるみたい」

「そうですか……。他には?」

「桐島さんによろしく、って。――そういえばパーティーの時、貴方とママ、何か楽しそうに話してたわよね? 一体どんな話をしてたの?」

「それは……ノーコメントで」

 わたしが訊いても、彼はとぼけるだけだった。