三年前、何も言わず消えたと思っていた母は、サラに化けたバルクロに癒しの箱を渡し、それを持って逃げろと言ったのだ。

その時、母に何か大きな危険が迫っていたことは間違いない。

そして母が頼って来たのは昔働いていたこのお屋敷だった。

そこまでは理解できる。

けれど何故こんなところで?

しかも三年も眠り続けているなんて……。

「どうして母は眠っているんですか?」

グレンはゆっくりと柩に近付き、その蓋に手をかけるとサラを振り返った。

「おいで」

サラは震える足にどうにか力を入れて立ち上がると、グレンの隣に並び柩の蓋を見下ろした。

「開けるよ」

ずらされた蓋の下に見えたのは青白い顔で眠るローラの姿だった。

「ローラは病魔に侵されていたんだ。俺はローラを死なせたくなかった。この部屋は時が止まった部屋だ。ここならローラを死なせずに時間を稼ぐことができる」

サラはハッと思いついて声を上げていた。

「癒しの箱があれば母を救えるわ。バルクロが癒しの箱を持っている……!」

「そうか。恐らく奏での箱もあいつが持っているはずだ。奏での箱があればローラを目覚めさせることができる」

サラは改めてローラの顔を覗き込んだ。

青ざめてはいるが、張りのある肌は瑞々しく、本当に眠っているだけなのだと分かる。

「お母さん……、待っててね。私が必ず助けるから」

「もちろん俺もローラを必ず助ける。そして君を守るよ」

グレンの力強い声にサラは頷いた。