「新しい夜明けに!」
「新しい命に!」
「宿った命に!」
一夜明けて、新しい一年が始まった。
シーさんの事で驚いたこともあって、あのあといろいろバタバタしたけれど無事に新年を迎えることが出来た。
ラナさんも一日経ってすっかり元気になっている。もちろん、昨日のうちに治癒魔法を施したってのもあるだろうけど。
新年を迎えたこの日、出産祝いと懐妊祝い、新築祝いとお祝いのオンパレードだ。
「アーゼさん、落ち着いたら村に戻られてはどうですか? シーさんも落ち着かないでしょうし」
「いや、もう一軒完成するまでは」
「そうです。ラルさん、お気になさらないで」
「でもしかし──」
妊娠初期って、ほら、つわりとかさ、あるんでしょ?
それなら住み慣れた場所の方がって思ってしまうのだけれど。
一軒完成したので、テント暮らしはもう終わりだ。
シーさんはティーの部屋で、ダンダさんとアーゼさんはリビングの隅に二段ベッドを置いてそこで暫く寝泊まりして貰う──予定だった。
書斎が開いているけれど、暖房がないのでそれならリビングの方がいいとアーゼさんが言うのでそうなったのだけれど。
「体調のことを気遣ってくれるのは嬉しいのだけれど、このまま村へ帰れば私もラナさんのことが心配だもの。初めての子育てで大変でしょうし、少しでも力になってあげたいのです」
「シーさん……ありがとうございます。私のために、ありがとうございます」
シーさんとラナさんは、ちょっと年の離れた親友同士のような関係が築けているようだ。
「それにねラルさん。この……ストーブというのは、とても暖かくて……」
「あぁ……蜥蜴人は寒さに弱いんでしたね。でも村は地熱のおかげで暖かいのでは?」
「そうなんですけど、でも木の上でしょ? だから雪の季節はそれなりに冷え込むんですよ」
なるほど。
ツリーハウスだからこそ、家屋の中であまり火は使えない。
彼らの村では、暖炉が備わった家は一軒もないとのことだ。
「ツリーハウスか……それじゃとストーブも危ないのう」
「そうですねぇ……最近は地面での暮らしの方が、何かと楽だと思うようにもなってきたし」
シーさんはそう言って笑った。
確かにツリーハウスにはいくつか欠点があるよな。
家に入るためには巨木に上らなきゃいけないのだから、身重の女性には辛いだろう。
水を汲むのも、野菜の収穫をするのにも、いちいち地面に降りなきゃいけないのだし。
「父さんも母さんも、いっそこっちに暮らせばいい! ね、ラルいいよね?」
「ん? 別に構わないっていうか、なんでわざわざ俺に聞くんだい?」
「え? だってラルは、王様からこの草原を貰ったんだろう? じゃあ草原はラルのものじゃないか」
まぁ確かにこのエセラノ草原は、名目上フォーセリトン王国領だ。そして陛下はこの草原を俺にくださった。
その証というか、書面でなんか頂いたはずだ。
収納袋の中に入れっぱなしだったけど……えぇっと、これかな?
王家の印が描かれた上質な紙。
くるりと巻かれたそれを広げで内容を確認すると、
汝ラルトエン・ウィーバスに、魔王デスギリア討伐に貢献した褒美としてエセラノ平原を与える。
また同時にラルトエン・ウィーバスには、辺境伯としての爵位を与える。
そんなことが書かれていた。
「ラルが辺境伯!?」
「き、貴族だったのか、ラルは!」
「いやいやいやいや、待って! 俺田舎の農村出身で、農民の子だから!」
「辺境伯ラルに、乾杯!」
「「かんぱーい!」」
「待って! 何かの間違いだから、ねぇ。待って!」
俺……いつの間にそんな大出世したんだ!?
紙には他にいろいろ書いてあった。
俺がこの平原の領主であること。
税金の支払い義務はないということ。
村を造ろうが町を造ろうが、好きにしていいということ。
この土地を離れて新天地を目指す場合は、ひとこと言ってからにすること。
要約すれば好き勝手していいぞってことだ。
別の土地に移り住む場合にだけ、一言欲しいということらしい。
まぁその辺りは元魔王領のこともあるので、俺がいなくなるなら他に監視を置かなきゃならないからだろう。
たくさんのお祝いを終え、オグマさんとラナさんは隣の家に戻った。
暫くはリキュリアもあちらで寝泊まりするという。
じゃあその間はアーゼさんとダンダさんに使ってくれとリキュリア入ったが、二人は丁重にそれを断った。
女の子の部屋におっさん二人が寝泊まりするのは申し訳ない──とのことで。
真顔でそんなことを二人が言うもんだから、一同大爆笑だったよ。
「それじゃあおやすみ」
「うむ、おやすみ」
「おやすみなさい」
「おっやすみ~」
梯子を上ってロフトへと上がる。
天井高があると言っても、背筋を伸ばして立てるのは屋根の真ん中あたりだけだ。
寝るのが目的なので問題はない。
足の短い簡素なベッドに寝ころべば、星が見える位置に天窓がある。
今夜は晴れているので星がよく見える。
星を眺めながら、この先の事に思いを馳せた。
俺が……俺が辺境伯……。
といってもただの肩書だけしかないけれど。
徴税もされないらしいし、のーんびりここで暮らせればそれでいい。
反転の呪いがあっても、大勢と一緒でないならなんとかやっていけそうだ。
さぁ、明日からオグマさんたちの新居造りに取り掛からなきゃな。
魔王を倒しても、俺の仕事はなくならない。
まだまだ働かなきゃな!
さ、明日も早いし寝よう。
「新しい命に!」
「宿った命に!」
一夜明けて、新しい一年が始まった。
シーさんの事で驚いたこともあって、あのあといろいろバタバタしたけれど無事に新年を迎えることが出来た。
ラナさんも一日経ってすっかり元気になっている。もちろん、昨日のうちに治癒魔法を施したってのもあるだろうけど。
新年を迎えたこの日、出産祝いと懐妊祝い、新築祝いとお祝いのオンパレードだ。
「アーゼさん、落ち着いたら村に戻られてはどうですか? シーさんも落ち着かないでしょうし」
「いや、もう一軒完成するまでは」
「そうです。ラルさん、お気になさらないで」
「でもしかし──」
妊娠初期って、ほら、つわりとかさ、あるんでしょ?
それなら住み慣れた場所の方がって思ってしまうのだけれど。
一軒完成したので、テント暮らしはもう終わりだ。
シーさんはティーの部屋で、ダンダさんとアーゼさんはリビングの隅に二段ベッドを置いてそこで暫く寝泊まりして貰う──予定だった。
書斎が開いているけれど、暖房がないのでそれならリビングの方がいいとアーゼさんが言うのでそうなったのだけれど。
「体調のことを気遣ってくれるのは嬉しいのだけれど、このまま村へ帰れば私もラナさんのことが心配だもの。初めての子育てで大変でしょうし、少しでも力になってあげたいのです」
「シーさん……ありがとうございます。私のために、ありがとうございます」
シーさんとラナさんは、ちょっと年の離れた親友同士のような関係が築けているようだ。
「それにねラルさん。この……ストーブというのは、とても暖かくて……」
「あぁ……蜥蜴人は寒さに弱いんでしたね。でも村は地熱のおかげで暖かいのでは?」
「そうなんですけど、でも木の上でしょ? だから雪の季節はそれなりに冷え込むんですよ」
なるほど。
ツリーハウスだからこそ、家屋の中であまり火は使えない。
彼らの村では、暖炉が備わった家は一軒もないとのことだ。
「ツリーハウスか……それじゃとストーブも危ないのう」
「そうですねぇ……最近は地面での暮らしの方が、何かと楽だと思うようにもなってきたし」
シーさんはそう言って笑った。
確かにツリーハウスにはいくつか欠点があるよな。
家に入るためには巨木に上らなきゃいけないのだから、身重の女性には辛いだろう。
水を汲むのも、野菜の収穫をするのにも、いちいち地面に降りなきゃいけないのだし。
「父さんも母さんも、いっそこっちに暮らせばいい! ね、ラルいいよね?」
「ん? 別に構わないっていうか、なんでわざわざ俺に聞くんだい?」
「え? だってラルは、王様からこの草原を貰ったんだろう? じゃあ草原はラルのものじゃないか」
まぁ確かにこのエセラノ草原は、名目上フォーセリトン王国領だ。そして陛下はこの草原を俺にくださった。
その証というか、書面でなんか頂いたはずだ。
収納袋の中に入れっぱなしだったけど……えぇっと、これかな?
王家の印が描かれた上質な紙。
くるりと巻かれたそれを広げで内容を確認すると、
汝ラルトエン・ウィーバスに、魔王デスギリア討伐に貢献した褒美としてエセラノ平原を与える。
また同時にラルトエン・ウィーバスには、辺境伯としての爵位を与える。
そんなことが書かれていた。
「ラルが辺境伯!?」
「き、貴族だったのか、ラルは!」
「いやいやいやいや、待って! 俺田舎の農村出身で、農民の子だから!」
「辺境伯ラルに、乾杯!」
「「かんぱーい!」」
「待って! 何かの間違いだから、ねぇ。待って!」
俺……いつの間にそんな大出世したんだ!?
紙には他にいろいろ書いてあった。
俺がこの平原の領主であること。
税金の支払い義務はないということ。
村を造ろうが町を造ろうが、好きにしていいということ。
この土地を離れて新天地を目指す場合は、ひとこと言ってからにすること。
要約すれば好き勝手していいぞってことだ。
別の土地に移り住む場合にだけ、一言欲しいということらしい。
まぁその辺りは元魔王領のこともあるので、俺がいなくなるなら他に監視を置かなきゃならないからだろう。
たくさんのお祝いを終え、オグマさんとラナさんは隣の家に戻った。
暫くはリキュリアもあちらで寝泊まりするという。
じゃあその間はアーゼさんとダンダさんに使ってくれとリキュリア入ったが、二人は丁重にそれを断った。
女の子の部屋におっさん二人が寝泊まりするのは申し訳ない──とのことで。
真顔でそんなことを二人が言うもんだから、一同大爆笑だったよ。
「それじゃあおやすみ」
「うむ、おやすみ」
「おやすみなさい」
「おっやすみ~」
梯子を上ってロフトへと上がる。
天井高があると言っても、背筋を伸ばして立てるのは屋根の真ん中あたりだけだ。
寝るのが目的なので問題はない。
足の短い簡素なベッドに寝ころべば、星が見える位置に天窓がある。
今夜は晴れているので星がよく見える。
星を眺めながら、この先の事に思いを馳せた。
俺が……俺が辺境伯……。
といってもただの肩書だけしかないけれど。
徴税もされないらしいし、のーんびりここで暮らせればそれでいい。
反転の呪いがあっても、大勢と一緒でないならなんとかやっていけそうだ。
さぁ、明日からオグマさんたちの新居造りに取り掛からなきゃな。
魔王を倒しても、俺の仕事はなくならない。
まだまだ働かなきゃな!
さ、明日も早いし寝よう。