「ではでは、参りましょうか」
「えぇ、お願いします」

 ギョッズさんも空間収納鞄を持っていた。素材を彼の鞄に移して、これからマリンローへと向かう。
 俺とオグマさんも一緒にだ。
 オグマさんがマリンローを見てみたいというのと、俺ひとりでは帰りが大変だから。

 マリンローに到着したら、船を譲って貰う。もちろんこれも取引のうちだ。
 これからは素材を自分たちでマリンローに運ぼうと思って。
 そうすればついでに買い物もできるからな。

 ウーロウさんとギョッズさんは小舟でここまで来たようだ。
 船には他に二人の魚人族がいて、ギョッズさんの下で働いている船乗りらしい。

「あ、スレイプニールの鱗をくっつけるんで、速度上がりますよ」

 と、取り出した鱗を船にぺたりとくっつけた。
 
「おおぉぉ!?」

 船の速度が加速する。
 これから下流に向かうので、流れに逆らう訳じゃないがそれでも早い。

「ス、スレイプニールの鱗!?」
「えぇ、貰ったんdねす。あれ? お聞きになっていなかったんですか? スレイプニールのこと」
「いえいえ、聞いております! テイマーに操られて、それで……しかし鱗を貰っていたのは聞いておりません! ウーロウさん、だ、誰か魚人族で鱗は?」

 興奮気味のギョッズさんに言い寄られ、ウーロウさんは鬱陶しそうな顔をしている。
 嫌ぁな顔をしながら首を左右に振り、それから彼を押しのけた。

 すると今度はこちらにギョッズさんが来る。

「ラルさま!」
「売りません」
「そんなぁぁーっ」

 やっぱりか。
 売る訳ないだろう。スレイプニールから頂いたものだよ?
 そんなの売ったら、それこそスレイプニールの怒りを買ってしまう。

「はぁ……まぁちょっと言ってみただけなので! 気にしません!」
「……そうですか」

 切り替えの早い人だな。

 あっという間にマリンローまで到着をし、交換として貰う武器と小舟をもらう。

「オグマさん、少し時間いいですかね? 町長に挨拶をしてきたいんで」
「分かった。俺は少し買い物をしてきてもいいだろうか?」
「じゃあ一時間後にまたここで」

 復興中のマリンローだが、港町は活気に溢れていた。
 
 俺のことを覚えている人たちが手を振ってくれる。
 以前はこの町に人間族も住んでいたが、今では誰もいないみたいだな。

 町長さんの家はまだ修繕できていないようだった。
 町の人に聞くと、自分の家は後回しでいいと、宿の一室で夫婦共に暮らしているそうだ。

 その宿を尋ねると──

「勇者様! 酷いじゃありませんか!! いつうちに泊まってくれるんですっ」
「あ、いや、その……」

 すっかり忘れていた。
 毎日家造りで忙しく、それどころじゃなかったものなぁ。

「今日こそはお泊りいただけるんですよね!」
「いや、今日は……その」

 今日中に帰るって言って出てきたんだ。帰らない訳にはいかない。
 転移リングを使えばすぐだけど、そうなると船が……。
 あ、空間収納袋に入れればいいか。

 どうせならみんなも呼ぶか。

「こ、今夜は泊まらせていただきます。でもその前に同行者に知らせてこないと。ね? ね?」
「本当でしょうね! 嘘じゃないでしょうね!」
「本当っ、本当だから。じゃー」

 町長さんに挨拶するはずだったのに、挨拶しないで戻ってしまった。
 で、オグマさんを探して事情を話し、船を収納してから俺だけでいったんキャンプへ転移。

「──て訳で」
「そう言えば、宿屋のおじさんたち、ラルに泊ってくれって必死だったわね」
「なんで? なんでラルを泊めたいんだ?」

 まぁなんとなく予想がつく。王都の宿屋でもそうだったから。

 町を救った勇者が泊まった宿──という看板を掲げるためだ。
 まぁ宿をしての箔が付くってことだろう。

 身重のラナさんを慎重に船に乗せ、それからマリンローを目指した。

「まぁ、風が気持ちいい」
「姉さん寒くない? 大丈夫?」
「えぇ、大丈夫よ。最近はずっと家の中だったし、気持ちいいわ」

 出産前にリラックス出来てよかったかもしれない。
 
 その夜はマリンローの宿でのんびり寛ぐことが出来た。
 宿には風呂もあって、しかも広くて気持ちよかった。しかもサウナなんてものもあったし。

 やっぱり大きな風呂はいいよなぁ。
 今の家が完成したら、ダンダさんに相談してみよう。