勇者アレスの一刀で、魔王デスギリアは滅びた。
あの「無事かあぁぁぁぁっ」の一刀で。
正直、嬉しかったね。
四人は俺のことを心配して、やっぱり魔王を倒す前に俺を無事に荷物のある場所まで送り届けようと、そう思って急いで引き返して来たらしい。
わずか一刀で魔王の頚が飛んだことには驚いていたが、完全に油断していただろうから──何よりアレスの聖なる剣だから、魔王を滅ぼせたんだ。
──ってことになっている。
俺がバフったのは内緒だ。
それでいい。
勇者が魔王を倒したことに変わりはない。
これで平和が訪れるなら、なんだっていいさ。
ただ──
「──ル。ラル?」
「え、あ、なんだい、アレス」
「ラルトエン様、あなた様の番ですわ」
「俺、の?」
無事に王都へと戻って来た俺たちを待っていたのは、国中を上げての祝賀ムードだ。
大勢に囲まれてもみくちゃにされ、お城に到着した時にはあちこち服が破れていた。
魔王城を出るときよりボロボロだ。
特にアレスなんて、いつの間にかマントもなくなっていたし。
「もうっ。褒美よ褒美」
「え、でも俺は魔王を倒すときには何もしていないし」
「それを言うなら俺たちだってそうさ。まさかアレスひとりで魔王を倒しちまうとは思わないだろ?」
とレイが苦笑いを浮かべる。
そう言われると、確かにそうか。
「ラルトエンよ。そなたの働きもアレスから聞いておる。四天王を倒して尚、体力に十分な余力が残っておったのは、ひとえにそなたの働きあっての事」
前回陛下にお会いしたのは、魔王軍が国境線でもある山脈を超えて来た時。
その時は語気も強めで、苛立ちを隠そうともしない口調だったので少し怖いと感じた。
その陛下が今は、とても穏やかに話をされている。
世界に平和が訪れたことを実感できる、そんな優しい声だ。
四人は既に欲しいものを陛下に伝え、それを了承して貰っている。
「望むものを言うがいい。叶えられるものであれば用意しよう」
「いえ、俺は……」
褒美なんて特に何もいらない。
貧しい村で産まれた俺は、幼少の頃から魔力が高かった。
だから王都にある魔術師養成施設に送られた。
ある一定以上の魔力を持っていれば施設では優遇され、その家族には毎月金貨が送られる。
代わりに魔術師として、王国に仕えなければならなくなるが、俺は別にそんなのどうでもよかった。
その日食べることさえ苦労していた村での生活が一変し、美味しいものを好きなだけ食べれるようになったのが感動ものだった。
おかげで最初の三年は激太りしてしまったけど。
魔王討伐の旅が終われば、王国への奉仕を終え、古郷に戻っていいとも言われている。
けど、今さら村には帰れないよ。
両親は十年前に亡くなっている。流行病で、村の人も半数以上が亡くなったらしい。
父も母も、兄弟たちすらいない家になんて、帰ったって仕方ない。
俺はこのまま王国で……いや、それもダメだ。
俺のバフは今や最悪のデバフになってしまっている。
だけど俺はずっとバッファーとしてやってきたから、ついうっかり誰かをバフってしまうかもしれない。
王都に戻って来るまでも、何度かアレスたちをバフりそうになったほどだ。
常に彼らをバフっていたから、誰かをバフる癖がついてしまっている。
勇者アレスの剣だったのもあるだろうけど、魔王相手にあの効果だ。人間相手に使ったらどうなることか……。
俺は……。
「陛下。俺に土地をください」
「ほぉ、貴族になって、土地を納めたいと申すか?」
「いえ。勇者アレスから既にお聞きになっているかと存じますが、自分は魔法効果が反転する呪いを受けております」
「うむ。最後の四天王による呪いのようだな。解除は出来ぬか?」
「私が試しましたが、ダメでした……。恐らく自身の命と引き換えにした呪いでしょう」
たぶん、俺が死ぬまで解けることはないだろう。
寿命が縮むわけでもないし、生きていく分にはなんの問題もない。
ただ、
「俺は生粋のバッファーです。常に誰かに支援魔法を使いたくなるんです」
「おいおいラル、今は我慢してくれよ」
「分かってるよレイ。でもうっかりってこともある。だからこそ俺は──辺境の、誰も住んでいないような土地に住みたいんです」
「本当に行くのか?」
アレスは未だに俺のことを心配していた。
「大丈夫だって。辺境と言っても緑は豊かだし、川もあるから自給自足に困ることは無いって」
「自給自足ってラル……畑仕事したことがあるのか?」
「……ド田舎の村出身です」
そう真顔で答えると、後ろで大笑いする奴がいた。
「ド田舎出身ってラル。お前、五歳で王都に来たじゃねーか。五歳まで村にいたつっても、畑仕事なんてしてないだろう」
「ぐ……ち、知識はある! それに、作物の種や苗も大量に貰ったし、狩りだって出来る」
大量の荷物はリリアン作の空間収納袋に入っている。
直近の食糧も十分過ぎるほど入っているから、困ることは無い。
移動にかなりの日数を要するけれど、足りなくなれば途中の町で仕入れればいい。
必要だと思われる日用品、開拓道具もありとあらゆるものを詰め込んだ。
「まぁ出来ないことに挑戦するっていうのも、なんだか楽しそうでね」
「そういうところは魔術師の癖みたいなものよねぇ。探求心ってやつ」
「ははは、そんな感じ」
リリアンとは魔法の研究の話でよく盛り上がっていた。
そのたびにレイが羨ましそうな顔で見ていたのをよく覚えている。
この二人も近いうちに結婚するんだろうな。
「ま、そういう訳だから、心配しないでよみんな。俺はね、結構今、楽しみで仕方ないんだ」
これは本当のことだ。
五歳から十五歳まで王都の魔術師施設で、朝から晩までずっと魔法の勉強をしてきた。
十五歳で勇者パーティーのメンバーに選ばれ、そこからはずっと旅暮らしだ。
それが意外にも楽しかった。
施設での暮らしは衣食住に困ることもなかったし、贅沢な生活を送れていたと思う。
ただひとつ。
自由に外を歩けないという点を覗いて。
「これから俺は、自由に生きていける。だから楽しくて仕方ないんだ」
あの「無事かあぁぁぁぁっ」の一刀で。
正直、嬉しかったね。
四人は俺のことを心配して、やっぱり魔王を倒す前に俺を無事に荷物のある場所まで送り届けようと、そう思って急いで引き返して来たらしい。
わずか一刀で魔王の頚が飛んだことには驚いていたが、完全に油断していただろうから──何よりアレスの聖なる剣だから、魔王を滅ぼせたんだ。
──ってことになっている。
俺がバフったのは内緒だ。
それでいい。
勇者が魔王を倒したことに変わりはない。
これで平和が訪れるなら、なんだっていいさ。
ただ──
「──ル。ラル?」
「え、あ、なんだい、アレス」
「ラルトエン様、あなた様の番ですわ」
「俺、の?」
無事に王都へと戻って来た俺たちを待っていたのは、国中を上げての祝賀ムードだ。
大勢に囲まれてもみくちゃにされ、お城に到着した時にはあちこち服が破れていた。
魔王城を出るときよりボロボロだ。
特にアレスなんて、いつの間にかマントもなくなっていたし。
「もうっ。褒美よ褒美」
「え、でも俺は魔王を倒すときには何もしていないし」
「それを言うなら俺たちだってそうさ。まさかアレスひとりで魔王を倒しちまうとは思わないだろ?」
とレイが苦笑いを浮かべる。
そう言われると、確かにそうか。
「ラルトエンよ。そなたの働きもアレスから聞いておる。四天王を倒して尚、体力に十分な余力が残っておったのは、ひとえにそなたの働きあっての事」
前回陛下にお会いしたのは、魔王軍が国境線でもある山脈を超えて来た時。
その時は語気も強めで、苛立ちを隠そうともしない口調だったので少し怖いと感じた。
その陛下が今は、とても穏やかに話をされている。
世界に平和が訪れたことを実感できる、そんな優しい声だ。
四人は既に欲しいものを陛下に伝え、それを了承して貰っている。
「望むものを言うがいい。叶えられるものであれば用意しよう」
「いえ、俺は……」
褒美なんて特に何もいらない。
貧しい村で産まれた俺は、幼少の頃から魔力が高かった。
だから王都にある魔術師養成施設に送られた。
ある一定以上の魔力を持っていれば施設では優遇され、その家族には毎月金貨が送られる。
代わりに魔術師として、王国に仕えなければならなくなるが、俺は別にそんなのどうでもよかった。
その日食べることさえ苦労していた村での生活が一変し、美味しいものを好きなだけ食べれるようになったのが感動ものだった。
おかげで最初の三年は激太りしてしまったけど。
魔王討伐の旅が終われば、王国への奉仕を終え、古郷に戻っていいとも言われている。
けど、今さら村には帰れないよ。
両親は十年前に亡くなっている。流行病で、村の人も半数以上が亡くなったらしい。
父も母も、兄弟たちすらいない家になんて、帰ったって仕方ない。
俺はこのまま王国で……いや、それもダメだ。
俺のバフは今や最悪のデバフになってしまっている。
だけど俺はずっとバッファーとしてやってきたから、ついうっかり誰かをバフってしまうかもしれない。
王都に戻って来るまでも、何度かアレスたちをバフりそうになったほどだ。
常に彼らをバフっていたから、誰かをバフる癖がついてしまっている。
勇者アレスの剣だったのもあるだろうけど、魔王相手にあの効果だ。人間相手に使ったらどうなることか……。
俺は……。
「陛下。俺に土地をください」
「ほぉ、貴族になって、土地を納めたいと申すか?」
「いえ。勇者アレスから既にお聞きになっているかと存じますが、自分は魔法効果が反転する呪いを受けております」
「うむ。最後の四天王による呪いのようだな。解除は出来ぬか?」
「私が試しましたが、ダメでした……。恐らく自身の命と引き換えにした呪いでしょう」
たぶん、俺が死ぬまで解けることはないだろう。
寿命が縮むわけでもないし、生きていく分にはなんの問題もない。
ただ、
「俺は生粋のバッファーです。常に誰かに支援魔法を使いたくなるんです」
「おいおいラル、今は我慢してくれよ」
「分かってるよレイ。でもうっかりってこともある。だからこそ俺は──辺境の、誰も住んでいないような土地に住みたいんです」
「本当に行くのか?」
アレスは未だに俺のことを心配していた。
「大丈夫だって。辺境と言っても緑は豊かだし、川もあるから自給自足に困ることは無いって」
「自給自足ってラル……畑仕事したことがあるのか?」
「……ド田舎の村出身です」
そう真顔で答えると、後ろで大笑いする奴がいた。
「ド田舎出身ってラル。お前、五歳で王都に来たじゃねーか。五歳まで村にいたつっても、畑仕事なんてしてないだろう」
「ぐ……ち、知識はある! それに、作物の種や苗も大量に貰ったし、狩りだって出来る」
大量の荷物はリリアン作の空間収納袋に入っている。
直近の食糧も十分過ぎるほど入っているから、困ることは無い。
移動にかなりの日数を要するけれど、足りなくなれば途中の町で仕入れればいい。
必要だと思われる日用品、開拓道具もありとあらゆるものを詰め込んだ。
「まぁ出来ないことに挑戦するっていうのも、なんだか楽しそうでね」
「そういうところは魔術師の癖みたいなものよねぇ。探求心ってやつ」
「ははは、そんな感じ」
リリアンとは魔法の研究の話でよく盛り上がっていた。
そのたびにレイが羨ましそうな顔で見ていたのをよく覚えている。
この二人も近いうちに結婚するんだろうな。
「ま、そういう訳だから、心配しないでよみんな。俺はね、結構今、楽しみで仕方ないんだ」
これは本当のことだ。
五歳から十五歳まで王都の魔術師施設で、朝から晩までずっと魔法の勉強をしてきた。
十五歳で勇者パーティーのメンバーに選ばれ、そこからはずっと旅暮らしだ。
それが意外にも楽しかった。
施設での暮らしは衣食住に困ることもなかったし、贅沢な生活を送れていたと思う。
ただひとつ。
自由に外を歩けないという点を覗いて。
「これから俺は、自由に生きていける。だから楽しくて仕方ないんだ」