アーゼさん夫妻が運んで来たテントも張り終え、全員で一息をつく。
ラナさんは俺のテントで休んで貰っていたが、今は外に出て来て一緒にティータイム中だ。
「え、じゃああのサイノザルスは、北の魔王領からずっと追いかけてきていたのですか?」
「あぁ。北の荒野を渡っている時に奴に見つかったが、直ぐには襲って来なかったのだ」
「あたしたちの体力が尽きるのを待って、それから襲ってきたのよ」
少しでも楽をして獲物を仕留めようってことだろう。
賢いといえばそうなるか。
オグマさんたち三人は、北の魔王領に暮らす魔族だ。
魔王領といっても、国とかそういった概念はない。ただ奴が支配している土地──いや、今では支配していた土地という方が正しいか。
よく魔王と魔族を混同する人間はいるが、魔王は魔物の王であって魔族とはまったく異なる種族だ。
混同されやすいのは同じ「魔」が付くからというのもあるが、魔族が北の大地に暮らす種族だからってのもある。
魔王も北の大地で生まれた存在だから。
それもあって、魔王の手から逃れるため他に土地に移り住もうとしても、迫害され、結局北に戻るしかないのだ。
「あたしと兄は、混血なの」
「混血? ……もしかして人間との?」
妹のリキュリアさんが、うつむき加減で頷く。
ラナさんと比べると、肌の色は人間で言う、日焼けした肌程度だ。
それに兄妹は、ラナさんよりも魔力が高い──ように感じる。
魔王は魔族から魔力を奪った。
それは自身を滅ぼしかねない存在だからと判断したからだが、奪っただけでは生まれてくる子には高い魔力が備わるかもしれない。
だから呪ったのだ。
魔族から産まれる子に、魔力が備わらないようによ。
魔力が高いということは、魔族じゃない者から産まれたということに他ならない。
そして北の大地に暮らすのは、魔族の他にはドワーフと、そして人間だ。エルフは決して北の大地で暮らさない。
「我らの母が北の大地に暮らす人間だ。里では他種族と交わることを毛嫌いしているので、昔からずっと迫害を受けていたのだ」
「それでも父や母が存命だった頃はよかった。二人は里を魔物から守っていたから……」
「二人のご両親は、オグマが生まれる前から里をずっと守ってくださっていたそうです。義母は人間でありながら、魔族の里を守って──」
十三年前。モンスターの大規模な襲撃があり、ご両親は共に亡くなったそうだ。
それまで里の英雄だなんだのと褒め称えていたのに、二人が亡くなると掌を返したようにオグマさんとリキュリアに対しての風当たりが強くなったという。
しかも里長が中心になって。
「ラナとの結婚も、随分と反対された。彼女のご両親にではなく、里長や他の大人たちに」
「ラナを他の男と結婚させたいがために、兄さんとの結婚を止めさせようとしたの」
「なんて酷い……それで、里を出たと?」
「ラナが子を身籠った。俺たちの子にまで、同じ目に会わせたくなかったのだ」
それで三人が穏やかに暮らせる土地を求めて、南へとやって来たそうだ。
どこか亜人の集落や町で、自分たちを受け入れてくれる場所が無いか──と。
そこまで話してからオグマさんが当たりを見渡す。
草と岩、そして僅かな木と、遠くには森が見えるだけ。他には何もない。
「ラルはここで暮らす……つもりなのだろうか?」
「あ、えぇ。まだ何もないですけど、フォーセリトン国王からこのエセラノ草原を、魔王討伐の報酬として頂いたので」
「魔王討伐報酬で? なんでこんな辺境の土地を……」
「いや、ほら。さきほど話した反転の呪い。あれのせいです。俺、生粋のバッファーだったもので、その……つい誰かにバフ魔法を飛ばす癖がありまして」
効果の事を考えると、間違ってバフりましたてへペロでは済まされない。
それで少しでも人のいない土地に──。
「と言う訳でして」
「な、なるほど……。確かにあんな強力なデバフだったら、うっかりこけたりでもしたら……」
「死ぬかもしれないわね」
と兄妹は深く頷いた。
そう。だからこそ人のいない土地までやって来たんだ。
まぁ成り行きでティーや、これからしばらくはアーゼさんらと一緒に生活することになるけれど。
もしかすると……
家が完成してからもティーはこのままここで暮らすんじゃないかと思っている。
蜥蜴人の里では肩身の狭い思いをするだろうし。
正直、年頃の女の子と二人というのは困るけれど、だからと言って追い返すわけにもいけないし。
そのうち落ち着いたら、北の山脈に豹人を探しに行くのもいいかもしれない。
険しい山道を行くのも初めてではないし、氷の女王カペラも滅んでいるので山の気温も落ち着いて来るだろう。
生き残っている人がいればいいのだけれど。
「そうか……ラルはこの草原に……」
ぶつぶつとオグマさんが呟き、何かを思案しはじめる。
妹のリキュリアさんと、それに奥さんのラナさんとも話し込み始めた。
そしてティーが「夕飯前に水汲みに行ってくる」と立ち上がるった時だ。
「ラル!」
「え、はい?」
突然立ち上がって声を上げたあと、今度は土下座をした!?
え!?
「我らを──この土地に住まわせてください!!」
ラナさんは俺のテントで休んで貰っていたが、今は外に出て来て一緒にティータイム中だ。
「え、じゃああのサイノザルスは、北の魔王領からずっと追いかけてきていたのですか?」
「あぁ。北の荒野を渡っている時に奴に見つかったが、直ぐには襲って来なかったのだ」
「あたしたちの体力が尽きるのを待って、それから襲ってきたのよ」
少しでも楽をして獲物を仕留めようってことだろう。
賢いといえばそうなるか。
オグマさんたち三人は、北の魔王領に暮らす魔族だ。
魔王領といっても、国とかそういった概念はない。ただ奴が支配している土地──いや、今では支配していた土地という方が正しいか。
よく魔王と魔族を混同する人間はいるが、魔王は魔物の王であって魔族とはまったく異なる種族だ。
混同されやすいのは同じ「魔」が付くからというのもあるが、魔族が北の大地に暮らす種族だからってのもある。
魔王も北の大地で生まれた存在だから。
それもあって、魔王の手から逃れるため他に土地に移り住もうとしても、迫害され、結局北に戻るしかないのだ。
「あたしと兄は、混血なの」
「混血? ……もしかして人間との?」
妹のリキュリアさんが、うつむき加減で頷く。
ラナさんと比べると、肌の色は人間で言う、日焼けした肌程度だ。
それに兄妹は、ラナさんよりも魔力が高い──ように感じる。
魔王は魔族から魔力を奪った。
それは自身を滅ぼしかねない存在だからと判断したからだが、奪っただけでは生まれてくる子には高い魔力が備わるかもしれない。
だから呪ったのだ。
魔族から産まれる子に、魔力が備わらないようによ。
魔力が高いということは、魔族じゃない者から産まれたということに他ならない。
そして北の大地に暮らすのは、魔族の他にはドワーフと、そして人間だ。エルフは決して北の大地で暮らさない。
「我らの母が北の大地に暮らす人間だ。里では他種族と交わることを毛嫌いしているので、昔からずっと迫害を受けていたのだ」
「それでも父や母が存命だった頃はよかった。二人は里を魔物から守っていたから……」
「二人のご両親は、オグマが生まれる前から里をずっと守ってくださっていたそうです。義母は人間でありながら、魔族の里を守って──」
十三年前。モンスターの大規模な襲撃があり、ご両親は共に亡くなったそうだ。
それまで里の英雄だなんだのと褒め称えていたのに、二人が亡くなると掌を返したようにオグマさんとリキュリアに対しての風当たりが強くなったという。
しかも里長が中心になって。
「ラナとの結婚も、随分と反対された。彼女のご両親にではなく、里長や他の大人たちに」
「ラナを他の男と結婚させたいがために、兄さんとの結婚を止めさせようとしたの」
「なんて酷い……それで、里を出たと?」
「ラナが子を身籠った。俺たちの子にまで、同じ目に会わせたくなかったのだ」
それで三人が穏やかに暮らせる土地を求めて、南へとやって来たそうだ。
どこか亜人の集落や町で、自分たちを受け入れてくれる場所が無いか──と。
そこまで話してからオグマさんが当たりを見渡す。
草と岩、そして僅かな木と、遠くには森が見えるだけ。他には何もない。
「ラルはここで暮らす……つもりなのだろうか?」
「あ、えぇ。まだ何もないですけど、フォーセリトン国王からこのエセラノ草原を、魔王討伐の報酬として頂いたので」
「魔王討伐報酬で? なんでこんな辺境の土地を……」
「いや、ほら。さきほど話した反転の呪い。あれのせいです。俺、生粋のバッファーだったもので、その……つい誰かにバフ魔法を飛ばす癖がありまして」
効果の事を考えると、間違ってバフりましたてへペロでは済まされない。
それで少しでも人のいない土地に──。
「と言う訳でして」
「な、なるほど……。確かにあんな強力なデバフだったら、うっかりこけたりでもしたら……」
「死ぬかもしれないわね」
と兄妹は深く頷いた。
そう。だからこそ人のいない土地までやって来たんだ。
まぁ成り行きでティーや、これからしばらくはアーゼさんらと一緒に生活することになるけれど。
もしかすると……
家が完成してからもティーはこのままここで暮らすんじゃないかと思っている。
蜥蜴人の里では肩身の狭い思いをするだろうし。
正直、年頃の女の子と二人というのは困るけれど、だからと言って追い返すわけにもいけないし。
そのうち落ち着いたら、北の山脈に豹人を探しに行くのもいいかもしれない。
険しい山道を行くのも初めてではないし、氷の女王カペラも滅んでいるので山の気温も落ち着いて来るだろう。
生き残っている人がいればいいのだけれど。
「そうか……ラルはこの草原に……」
ぶつぶつとオグマさんが呟き、何かを思案しはじめる。
妹のリキュリアさんと、それに奥さんのラナさんとも話し込み始めた。
そしてティーが「夕飯前に水汲みに行ってくる」と立ち上がるった時だ。
「ラル!」
「え、はい?」
突然立ち上がって声を上げたあと、今度は土下座をした!?
え!?
「我らを──この土地に住まわせてください!!」