「ラル兄ぃ! オレやったぜ!!」
「あぁ、偉いなクイ。自分よりあんな大きな相手に、よく頑張った。怪我はないか?」

 そう尋ねながら、ティーやアーゼさんの姿を探す。

「オレ平気! オレ強いぜ!」
「そうか。最初に襲われていた人たちは無事だろうか?」
「たぶん無事だぜ!」

 そしてクイが「こっち」と言って四足で駆けた。
 それについて行くと、サイノザルスをぐるっと回りこんだ先にティーたちの姿が。

「大丈夫ですか!?」

 声を掛けると四人《・・)が手を上げる。

「ラル殿、大丈夫だ。ただ長時間の戦闘だったので、脱力感が」
「そちらのお二人も?」

 最初に襲われていた人だろう。
 身重の女性と同じく褐色肌の男女二人だ。性別や年齢こそ違うが、どこか面影が似ている。兄妹だろうか?
 すると男性のほうが立ち上がって、こちらへとやって来た。

「貴重な高級ポーションを分けてくださって、感謝のしようもない」
「いや、いいんです。友人に貰ったものですが、結構な数がありますので。俺自身、材料さえあれば下級ですが作れますので」

 この人、耳が尖っているな。エルフほどではないが人間よりは明らかに長く、尖った耳。
 ってことは魔族か。

 その昔、魔力に秀でた種族がいた。この世界に魔法をもたらしたのか彼らであり、それが原因で魔王からその力を奪われた種族だ。
 今では魔法を使える魔族もいないと言われている。

「しかし、サイノザルスの皮膚が急に柔らかくなったのは……いったいなぜなんだ?」
「ラルのデバフだぞ!」

 彼が首を傾げていると、ティーが得意げにそう話す。

「デバフ? あなたはデバッファーか?」
「いや、実はその……あぁ、話せば長くなりますが、とにかく体を休める場所まで行きませんか? あちらのご婦人のこともありますし」

 そう言うと、男性は思い出したかのように駆け出した。
 身重のご婦人は、彼の奥さんだろうか?
 もうひとりの魔族、女性の方へと視線を向けると、アーゼさんに手を借りて立ち上がるところだった。

 女性──と言っても俺よりも若そうだ。
 こちらに気づくと、軽く会釈するように頭を下げた。

「助けてくれて、感謝します」
「間に合ってよかった。他に仲間の方は?」
「いえ。兄と義姉の三人で旅をしていましたから」
「旅? お姉さんは身重のように見えましたが……」

 違ったかなと思ったが、若い魔族の女性は頷き「五カ月です」と答える。
 たしか魔族は人間と同じ妊娠期間のはず。
 五カ月ってことは、もう半分まできてるってことで……妊娠五カ月がどういう状態なのか知らないけれど、旅なんて出来るのかな?

「ラル!」

 ティーの声が聞こえて彼女に視線を向けると、サイノザルスを解体しているところだった。

「サイノザルスの角、柔らかいぞ」
「そりゃあ、効果がまだ持続しているからだろう」
「むぅ……硬くならないのか」
「なると思う……けどまだ検証していないな」

 素材として使うのだろう。
 サイノザルスの皮膚は硬い。さらに魔法への耐性も高いので、防具の素材として高値で取引される。
 さらに磨けば光沢も出るので、装飾品や調度品としても重宝されるものだ。

 柔らかいままだと価値はなさそうだけど。

「ティー。そのまま持って帰ろう。ニ十分もすれば効果が切れるし、その時に硬くなればよし。ダメなら捨てるしかないだろうね」
「ん。じゃあ皮も剥ぐ」
「俺も手伝おう。しかしどうやって運ぶか……」
「それなら──」

 空間収納袋がある。
 血の滴る素材を入れても、そのにおいが他の物に移ることは無いし、血が付くこともない。
 
「あたしも手伝う」
「いや、君は疲れているだろう」
「これぐらいやらせてっ」

 彼女の申し出を断ろうとしたが、逆にそれを断られてしまった。
 まぁ大丈夫そうだし、お言葉に甘えよう。

 クイも参加して、四人と一匹でサイノザルスの皮を剥ぎ、半分ぐらい終わったらキャンプに戻ることにした。
 草原のモンスターに集まられては、また戦闘になってしまうからな。

 途中でアーゼ夫妻が荷物運びとして連れてきたロバも回収し、来た道を引き返してキャンプ地へと向かう。

「俺はオグマ。あれが妹のリキュリアで、そっちが妻のラナという。見ての通り、魔族だ」
「ラルトエン・ウィーバスと言います。デバッファーではなく、バッファーなんですけど、訳あって魔法の効果が反転する呪いを受けていまして」
「呪い!? 魔法の効果が反転するなんて……随分強力な呪いのようだ」
「えぇ。術者はもう死んでいるんですけどね。それでも効果が残っているので、一生解除できないでしょう。それはもう、聖女のお墨付きですから」

 そう言って苦笑いを浮かべると、オグマが驚いたような表情になる。

「まさか……勇者一行の方か!?」
「はは、もうそのパーティーも解散しましたけどね」

 と、ここまで話すと、今度はアーゼが驚いたように声を上げた。

「ラル殿が勇者パーティーの一員だっただと!?」
「あ……えっと……」

 前に里長グンザさんに話をした時には、勇者パーティーのことは言わなかったっけ。説明が面倒だったから。

「ま、まぁその……勇者アレスのパーティーに、バッファーとして、ね」
「そ、そうだったのか! どうりで強力な魔法なわけだ……。効果が反転してこれだ。本来の効果であったなら、さぞ強力は支援だったろう」
「ただしバフ以外の効果は、ほんとゴミなんだけどね」
「ラル兄ぃはほんと、攻撃魔法も回復魔法もてんでダメやからなぁ。オレがついててやんなきゃ、危なっかしいんやで」

 クイが立ち上がってドヤっという感じで胸を逸らす。
 そんなクイを無視してみんなが歩くから、直ぐにクイは四足歩行で慌てて追いかけて来た。

「ラルは凄い奴だと思ってた。本当にすごい奴だった!」
「い、いや、凄くないよ。俺は仲間を後方から支援していただけだ。いつだって危険と隣り合わせて戦ってくれたのは、アレスやレイなんだし」
「そんなことはない! ラルがいてくれたから、きっとその二人も安心してモンスターと戦えたはずだ!」

 いやいや。聖女のマリアンナや魔導士のリリアンがいたからこそだろう。
 俺のバフ魔法は、そもそも基本能力の底上げだ。元々それなりの力があってこそだから、やっぱりみんなが凄いってことなんだよ。

「あ、キャンプが見えてきましたよ。とりあえずラナさんをテントの中で休ませてあげましょう」