レジスト・エレメントアップ──属性魔法に対する防御力を上昇させるバフ魔法。
それを掛けてヒール・バレットを使うと、効果が格段に上がった。
「ヒール系が聖属性魔法だっていうのは知っていたけど、まさかこっちでも効果があったとはなぁ」
「仲間の怪我を治すときに、効果が出ていたんじゃないのか?」
「いや、普段は俺、回復魔法なんて使わなかったから」
使う必要がない。だって希代の聖女と言われるマリアンナがいるのだから。
野営の準備していてちょこっと怪我した程度のときとか、自分でさっとヒールしていたぐらいかな。
エレメントアップも、戦闘中には切らさないようにしていたもんな。
だから魔法の有無で回復量が変わっていたかどうか、全く分からない。
分からなくたって、マリアンナの魔法は凄いんだから困ることもなかったしさ。
「みんな、今頃どうしてるのかなぁ」
アレスとマリアンアは、ちゃんと結婚したかな。
レイとリリアンも……レイはきっと尻に敷かれるよなぁ。
「ラル、仲間の所に帰りたい?」
「ん? いや、帰りたいとかはないよ。彼らもそれぞれ別の道を歩んでいるだろうし、それぞれの暮らしがあるんだ」
「じゃあラルは後悔していない?」
「してないよ。確かに辺境に来たのは、デバフ使いになってしまったからってのもあるけど」
五歳からずっと、王都の施設で暮らしていた俺は、外の世界をあまり知らなかった。
勇者パーティーのバッファーとして任命されてからの旅は、俺にいろんなことを学ばせてくれた。
だけど目的が目的だけに、楽しむ余裕なんてのはあまりなかった気がする。
「これからはさ、この広い世界でたくさんのものを見て、学んで、身に付けたいんだ」
「……ラルは勉強をする為にここへ来たのか?」
「え……いや、そういう訳じゃ……はは」
知らなかったことを知るというのは、楽しいことだと思うんだ。
今回のヒール砲だって、反転の呪いを掛けられたからこそこういう効果があったんだって知れたし。
呪いのせいで自分や仲間を強化出来なくなったけれど、相手を弱体化させればなんとかなることも分かった。
「弱体化……ん?」
あれ?
反転なんだから、そもそもデバフ魔法ならバフれるってことじゃ……。
……。
「しまった!!」
「がうっ!? ど、どうしたのだラル?」
支援魔法以外はゴミで、もちろんデバフ魔法もゴミ過ぎて使い物にならず、実戦で使ったのは養成施設での試験の時だけだった。
だから忘れていた。
「俺、デバフ魔法も使えるんだった」
となると、やっぱり試したくなるわけで。
「遠慮しなくていいんだぞラル!」
「いや、最初は自分で試すよ。どんな効果になっているか分からないし」
ティーは構わず自分で試せと言うけれど、万が一のこともある。
それに、万が一検証中にモンスターが襲って来たら大変だ。
彼女はこてこての前衛タイプ。対して俺はこてこての後衛タイプだ。
スピードアップは体の動きを速める効果があるが、声帯には影響がない。そのおかげで喋る速さは通常のまま。
つまり呪文の詠唱には影響がないので、もしもの時もバフで援護できる。正確にはデバフか? いや、魔法そのものはバフなのだから、やはりバフか?
うぅん、自分でもどっちなのか分からなくなってきた。
とにかく検証だ!
「"不可視なる枷で、かの者を縛れ──スロウ・モーション"」
スピードアップの真逆の効果を持つデバフだ。
本来なら動きを鈍らせるというものなのだけれど……。
「んー……どう……なんだろう?」
「魔法、掛ったのか?」
「掛った」
俺だって魔術師の端くれだ。自分の身に魔法が付与されたかどうかは、当然分かる。
手をグーパーとしてみるが、特に何かが変わった気がしない。
「うん! そもそも俺はバフ魔法以外、ゴミみたいな効果を発揮できないんだった!」
「ん? んん?」
つまり、劇的に魔法の効果が出るわけではないので、よく分からない!
ということだ。
ただ走ってみると少し分かった。
ほんの少しだけ、本当に少しだけ足が速くなっている。
試しにバフやデバフを打ち消す魔法を使って、何もしていない時とを比べてみよう。
「ティー、今からちょっと走るからさ、今の俺の速さを見ててくれないか。で、その後にデバフを解いて走る。速度が変わっているか、君なりに見て欲しいんだ」
「ん、任せろ! ボクは目が良いから、ちゃんと見てやるぞっ」
「そうか。豹人は動体視力もいいんだったな」
じゃってことでぐるぐる走り回って、次に効果を打ち消す魔法を──
「"全ては自然であれ──ディスペル"」
そう唱えたあと、反転の事を思い出した。
付与された魔法効果を全部打ち消すという、このディスペル。
反転するとどうなる?
ぶわぁっと魔力の流れを感じ、体中に雷が駆け巡ったかのような痺れを感じた。
それもほんの一瞬だ。
「な、なんだろう、今のは」
「どうしたラル。魔法は解けた?」
「どう、だろうな?」
解けたかどうかは、走ってみれば分かる。たぶん。
そう思って駆けた。
駆け──
「はああぁぁぁぁぁ!?」
「速い! ラル早いぞ!! 凄い!!」
ほんの十数メートル走るつもりが、あっという間に百メートルを超えた。
自分の足が自分の意思に反して動く。
で、足がもつれて盛大にこけた。
「ぶべっ」
「ラ、ラル!?」
「こ、こんなに早く、足ったこと……ない……」
体を地面に思いっきり打ち付けた。痛い。ただ痛いなんてものじゃない。
「ティ、ティー……鞄、持って来て」
「分かった!」
あぁ、こりゃ骨折れてるなぁ。
ポーションで早く治さなきゃ。
しかし……効果を打ち消す魔法が反転して、効果を最大限発揮させる魔法になったってことなのか?
それを掛けてヒール・バレットを使うと、効果が格段に上がった。
「ヒール系が聖属性魔法だっていうのは知っていたけど、まさかこっちでも効果があったとはなぁ」
「仲間の怪我を治すときに、効果が出ていたんじゃないのか?」
「いや、普段は俺、回復魔法なんて使わなかったから」
使う必要がない。だって希代の聖女と言われるマリアンナがいるのだから。
野営の準備していてちょこっと怪我した程度のときとか、自分でさっとヒールしていたぐらいかな。
エレメントアップも、戦闘中には切らさないようにしていたもんな。
だから魔法の有無で回復量が変わっていたかどうか、全く分からない。
分からなくたって、マリアンナの魔法は凄いんだから困ることもなかったしさ。
「みんな、今頃どうしてるのかなぁ」
アレスとマリアンアは、ちゃんと結婚したかな。
レイとリリアンも……レイはきっと尻に敷かれるよなぁ。
「ラル、仲間の所に帰りたい?」
「ん? いや、帰りたいとかはないよ。彼らもそれぞれ別の道を歩んでいるだろうし、それぞれの暮らしがあるんだ」
「じゃあラルは後悔していない?」
「してないよ。確かに辺境に来たのは、デバフ使いになってしまったからってのもあるけど」
五歳からずっと、王都の施設で暮らしていた俺は、外の世界をあまり知らなかった。
勇者パーティーのバッファーとして任命されてからの旅は、俺にいろんなことを学ばせてくれた。
だけど目的が目的だけに、楽しむ余裕なんてのはあまりなかった気がする。
「これからはさ、この広い世界でたくさんのものを見て、学んで、身に付けたいんだ」
「……ラルは勉強をする為にここへ来たのか?」
「え……いや、そういう訳じゃ……はは」
知らなかったことを知るというのは、楽しいことだと思うんだ。
今回のヒール砲だって、反転の呪いを掛けられたからこそこういう効果があったんだって知れたし。
呪いのせいで自分や仲間を強化出来なくなったけれど、相手を弱体化させればなんとかなることも分かった。
「弱体化……ん?」
あれ?
反転なんだから、そもそもデバフ魔法ならバフれるってことじゃ……。
……。
「しまった!!」
「がうっ!? ど、どうしたのだラル?」
支援魔法以外はゴミで、もちろんデバフ魔法もゴミ過ぎて使い物にならず、実戦で使ったのは養成施設での試験の時だけだった。
だから忘れていた。
「俺、デバフ魔法も使えるんだった」
となると、やっぱり試したくなるわけで。
「遠慮しなくていいんだぞラル!」
「いや、最初は自分で試すよ。どんな効果になっているか分からないし」
ティーは構わず自分で試せと言うけれど、万が一のこともある。
それに、万が一検証中にモンスターが襲って来たら大変だ。
彼女はこてこての前衛タイプ。対して俺はこてこての後衛タイプだ。
スピードアップは体の動きを速める効果があるが、声帯には影響がない。そのおかげで喋る速さは通常のまま。
つまり呪文の詠唱には影響がないので、もしもの時もバフで援護できる。正確にはデバフか? いや、魔法そのものはバフなのだから、やはりバフか?
うぅん、自分でもどっちなのか分からなくなってきた。
とにかく検証だ!
「"不可視なる枷で、かの者を縛れ──スロウ・モーション"」
スピードアップの真逆の効果を持つデバフだ。
本来なら動きを鈍らせるというものなのだけれど……。
「んー……どう……なんだろう?」
「魔法、掛ったのか?」
「掛った」
俺だって魔術師の端くれだ。自分の身に魔法が付与されたかどうかは、当然分かる。
手をグーパーとしてみるが、特に何かが変わった気がしない。
「うん! そもそも俺はバフ魔法以外、ゴミみたいな効果を発揮できないんだった!」
「ん? んん?」
つまり、劇的に魔法の効果が出るわけではないので、よく分からない!
ということだ。
ただ走ってみると少し分かった。
ほんの少しだけ、本当に少しだけ足が速くなっている。
試しにバフやデバフを打ち消す魔法を使って、何もしていない時とを比べてみよう。
「ティー、今からちょっと走るからさ、今の俺の速さを見ててくれないか。で、その後にデバフを解いて走る。速度が変わっているか、君なりに見て欲しいんだ」
「ん、任せろ! ボクは目が良いから、ちゃんと見てやるぞっ」
「そうか。豹人は動体視力もいいんだったな」
じゃってことでぐるぐる走り回って、次に効果を打ち消す魔法を──
「"全ては自然であれ──ディスペル"」
そう唱えたあと、反転の事を思い出した。
付与された魔法効果を全部打ち消すという、このディスペル。
反転するとどうなる?
ぶわぁっと魔力の流れを感じ、体中に雷が駆け巡ったかのような痺れを感じた。
それもほんの一瞬だ。
「な、なんだろう、今のは」
「どうしたラル。魔法は解けた?」
「どう、だろうな?」
解けたかどうかは、走ってみれば分かる。たぶん。
そう思って駆けた。
駆け──
「はああぁぁぁぁぁ!?」
「速い! ラル早いぞ!! 凄い!!」
ほんの十数メートル走るつもりが、あっという間に百メートルを超えた。
自分の足が自分の意思に反して動く。
で、足がもつれて盛大にこけた。
「ぶべっ」
「ラ、ラル!?」
「こ、こんなに早く、足ったこと……ない……」
体を地面に思いっきり打ち付けた。痛い。ただ痛いなんてものじゃない。
「ティ、ティー……鞄、持って来て」
「分かった!」
あぁ、こりゃ骨折れてるなぁ。
ポーションで早く治さなきゃ。
しかし……効果を打ち消す魔法が反転して、効果を最大限発揮させる魔法になったってことなのか?