『誠に申し訳なかったにゃ』

 どげざねこが土下座した。
 どげざねこの正式名称は箱書きを捨ててしまったから覚えてないけれど、高さ10センチ程度のリラクゼーション系ロボットである。
 半径1メートル以内にいる人の脳波のイラつきを検知して、ええと確かθ波とα波が低くてβ波が高い時、とかだったかな、ともあれ人がストレスを強く感じる脳波を出している時に謝ってリラックスさせるというロボットだ。

 実際のところちょっとイライラしてたのが、どげざねこが間抜けな声で土下座する姿を見ると、なんだかどうでもよくなってくる。
 ストレスを溜めすぎないという意味でも案外悪くないのかもしれない。

 今俺がイラっとしたのは10連ガチャを10回してSRしかでなかったから。せめてSSR出てほしかった。何かすでに失敗している気がする。
 ガチャ運はおいといて。

『どうかご勘弁にゃ』

 謝罪には少しだけバリエーションがある。今月の予定通り課金上限使い切ったけどまあ、いいや。よくはないんだけどさ。

 こんな感じでどげざねこはストレス値を緩和してくれるのだ。
 でもまあレアが出ないのはよくあることだし、俺は実のところそんなにイラっとはしてないんだけどな。
 どげざねこをツンツン突くけど反応はなかった。どげざねこは単機能ロボットで、土下座によるストレス値の緩和しかしない。音楽が流れてリラックスする機能とかあってもいい気はするんだけど。

◇◇◇

「なんか最近調子悪いんだよねぇ」
「大丈夫なの? 引越してからずっと言ってるよね」
「まあなんて言うか運が悪い感じ、こないだもコンビニ行ったら携帯の電波なくって決済できなくてさ。慌てて財布探したりとか」
「あぁー、そんな感じするよね?」
「そんな感じって?」
「あ、うーん」

 友人の智樹に愚痴ってたけどなんだか返事の端切れが悪い。

「まあ続いたら対策考えよっか」
「対策? お祓いにいったりとか?」
「そんな感じ?」

◇◇◇

 悪いことはなんだか続いた。でもこれってアレだと思う。気にしたらよけい気になるという奴。
 小銭が落ちてるのを何回か見つけたら俺ってラッキーな気がしてくるのと同じで、よくないことが目につくと俺ってアンラッキーってなるやつ。
 だからまあ実際にはそんなに気にして無くて。俺はどっちかっていうと楽天的なので。

『失礼仕ったにゃ』

 どげざねこが土下座した。俺、今そんなにイラついてたかな? まあハッピーな思考ではなかったような気はするけど。
 このどげざねこも少し影響をしている気がする。どげざねこが謝るとなんだかイラついていたような気分になる。最近ちょっとこの『イラついてる』という状況の範囲がよくわからなくなっている。
 俺はなんとなくまあいいかと思ってエロ本を広げた。すっきりしない時はすっきりするに限るのだ。

『申し訳ござにゃぬ』

 あの、賢者タイムのときにそれ言われると心がザワつくんですけど。
 今は別にイラついてはなかったよな。ひょっとしたらこのどげざねこはちょっと壊れているのだろうか。
 こつこつ頭を叩いてみたけど、特に反応はなかった。

◇◇◇

「やっぱ運悪いでしょ」

 愚痴ってから何日か後、突然智樹に声をかけられた。
 どうだったかな。気のせいだと思ってスルーしてたけど、ガチャ運は変わらず微妙な気はする。でも運悪いっていうほどじゃないような。

「なんで? 良くはないと思ってるけど悪いというほどでも」
「いやなんでっていうか。ええと」
「なんかモヤるからはっきり言って」
「ええと、幽霊とか信じる?」
「いや別に」
「だよね……」

 幽霊?

「俺に幽霊とかついてんの?」
「まあそう、なんかヤな雰囲気してる、家が呪われてるとかない?」
「どうだろ、幽霊って天ぷらにして食えるって聞いたことがあるんだけどそうなのかな」
「何言ってんの?」

◇◇◇

 とりあえず智樹を家まで案内すると、ぽかんと口を開けてめちゃ固まった。

「なにそれ俺の家そんなやばい感じなの?」
「ぐぅ、なんでここで暮らせてるのさ」
「えぇ? 普通に快適に」

 とりま家に入らないと話が始まらない。茶も煎れられないよね。
 完全に腰が引けてる智樹をおいて玄関を開けると声がした。

『面目ないにゃ』

 あれ? なんでどげざねこ? まだ影響範囲には入っていないと思うんだけど。
 ドサリという音がして振り返ると智樹が昏倒していた。
 え、そんなに?
 でも俺そこまで運が悪い実感ないんだけど。

『平に、平ににゃ~』

 振り返っても誰もいない。幽霊?
 ちょっとだけ考えて結論づけた。
 ひょっとしてどげざねこがヤバい幽霊のストレス値を緩和していた可能性。だから俺に悪いことは起こらなかった?
 そう考えると凄い性能?

 とりあえず倒れた智樹をそのままにしておけなかったから家にいれたけど、そのままにしといたほうがよかったのかもしれない。起きた時阿鼻叫喚だったから。