「なかでも一番腹が立ったのは、いじめの首謀者だよ」
「首謀者?」
「そう。謝りに来たやつのひとりが口をすべらせたんだ。おれたちはみんなそいつに命令されてやっただけだって。そいつが怖いから、やるしかなかったって。もちろんそいつは謝りにも来ないし、親にも先生にも気づかれてない。いまも何事もなかったかのように、のうのうと暮らしてる」

 いまも?

 幸野は疲れたようにちいさく息を吐いてから、また続けた。

「東京行ってから、おれ荒れてたんだ。なにもかもが嫌になって、なんのために生きてるのかわかんなくなって。母さんにひどいこともたくさんした。なのに母さんは、死ぬ前に何度も謝ってた。『ごめんね、(たくみ)』『ごめんね、悟』って……」

 そこまで言うと、幸野はわたしの顔をにらむように見た。

「なぁ、おかしいだろ? おかしいよな、これ。なんで母さんが謝りながら死ぬんだよ。ほんとうに死ななきゃいけないのは……」

 わたしを見つめたまま、幸野はそこで言葉を切る。
 そして息を吐くようにつぶやいた。

「おれは忘れてないよ、その首謀者の名前」

 わたしの手が震えだした。
 その震えが、つないだ手を通して、幸野に伝わっていく。

「し、仕返しするの?」

 幸野は答えない。

「だ、だめだよ。そんなの」

 黙ったままの幸野の手を、強く握りしめる。