「いじめだったんだよ」

 ぎゅっと胸が痛む。

「母さんにも、もちろんおれにも言わなかったけど、中学でいじめられてたんだ、兄ちゃんは。亡くなったあと、兄ちゃんの持ち物見てすぐにわかった。でも学校は騒ぎを大きくしたくなくて、うやむやに終わらせて……クラスの連中はみんな気づいてたはずなのに」

 幸野が反対側の手で、砂をつかむ。

「すこしたって、いじめたやつらが親と一緒に謝りに来た。仕方なくって感じで。こんなことになるとは思わなかった。暴力振るったわけでも、金を巻き上げたわけでもない。ちょっとからかっただけだって。おれ、こいつら全員殺してやろうかと思った」

 そう言うと、幸野はつかんだ砂を悔しそうに投げ捨てた。

「でも母さんは許せって言うんだ。仕返しなんかしたら、あんたもあの子たちと同じ人間になる。そしてまた、あんたが誰かに仕返しされる。憎しみはどこかで断ち切らないと、永遠に続いちゃうんだよって」

 わたしの頭に、あかりたちにやられたひどいことが、次々と浮かんでくる。

「でもおれはぜんぜん納得できなかった。いじめたやつらは謝って終わり。でも死んだやつの名前は晒されて噂になって、おれはサッカーができなくなって、母さんと逃げるようにこの町を出た。なんでだよって思ったね。あいつらのせいで、なんでおれたちがって……」

 幸野はもう一度砂を握りしめると、その手を砂の上に叩きつけた。