「海だー!」
わたしの手を離し、幸野が波打ち際に向かって走りだす。
その姿は遠足に来た子どもみたいだ。
「そんなに来たかったの? ここ」
すこし強い風に流される髪を押さえながら、はしゃいでいる背中に聞く。
「うん! 四年生のころと、ぜんぜん変わってねーな。このへんにレジャーシート広げて、弁当食べたんだよな」
「そうだね。国道沿いには新しいお店がたくさんできてたけど、海はなんにも変わってない」
懐かしいなぁ。
昔の思い出が次々とよみがえってくる。
お姉ちゃんのお下がりだったピンク色のリュックサック。
お母さんが作ってくれたお弁当。
クラスは違ったけど、あかりが声をかけてくれて、この砂浜で一緒にお弁当を食べたんだ。
風でレジャーシートが飛んでしまって、それを追いかけるだけで、楽しくてキャーキャー騒いでいたっけ。
「あのころ、男子ってバカだったよな。水に入って靴濡らして、先生に怒られて。家に帰るまで、おれの靴びしょびしょでさ、すっげー気持ち悪かった」
幸野もあの日のことを、思い出しているんだろう。
おかしそうに笑う幸野のスニーカーに、波が打ち寄せる。
「つめてっ」なんて言いながら跳ねまわって、水しぶきが服にかかる。
あんたもあのころと変わってないじゃん。
すると幸野が背中を向けたまま、ぽつりとつぶやいた。
「でもバカな子どもでいられたのは、あの日までだった」
幸野の声を、波の音がさらっていく。
わたしは一瞬息をのむ。
わたしの手を離し、幸野が波打ち際に向かって走りだす。
その姿は遠足に来た子どもみたいだ。
「そんなに来たかったの? ここ」
すこし強い風に流される髪を押さえながら、はしゃいでいる背中に聞く。
「うん! 四年生のころと、ぜんぜん変わってねーな。このへんにレジャーシート広げて、弁当食べたんだよな」
「そうだね。国道沿いには新しいお店がたくさんできてたけど、海はなんにも変わってない」
懐かしいなぁ。
昔の思い出が次々とよみがえってくる。
お姉ちゃんのお下がりだったピンク色のリュックサック。
お母さんが作ってくれたお弁当。
クラスは違ったけど、あかりが声をかけてくれて、この砂浜で一緒にお弁当を食べたんだ。
風でレジャーシートが飛んでしまって、それを追いかけるだけで、楽しくてキャーキャー騒いでいたっけ。
「あのころ、男子ってバカだったよな。水に入って靴濡らして、先生に怒られて。家に帰るまで、おれの靴びしょびしょでさ、すっげー気持ち悪かった」
幸野もあの日のことを、思い出しているんだろう。
おかしそうに笑う幸野のスニーカーに、波が打ち寄せる。
「つめてっ」なんて言いながら跳ねまわって、水しぶきが服にかかる。
あんたもあのころと変わってないじゃん。
すると幸野が背中を向けたまま、ぽつりとつぶやいた。
「でもバカな子どもでいられたのは、あの日までだった」
幸野の声を、波の音がさらっていく。
わたしは一瞬息をのむ。