「『ひとが死ぬ』ってさ、なにも特別なことじゃないんだよね」

 前を向いて歩きながら、幸野が口を開く。

「毎日必ず誰かが死んでいくし、自分もいつか死ぬ。おれにとって死っていうのは、ぜんぜん特別なことじゃないんだよ」

 そう言ってちいさく息を吐き、幸野はつぶやく。

「ていうかむしろ、超身近なこと」

 わたしの胸がちくっと痛んだ。
 その痛みが、じわじわと体の奥に広がっていく。
 幸野のお母さんが亡くなったことと、もしかしてお兄さんも亡くなったことが、幸野に「死」というものを身近にさせているんだろうか。

 なんだか不安になって、幸野の手を握りしめた。
 幸野はそんなわたしを見て、かすかに微笑む。

「なぁ、海、行こう?」

 幸野の手が、わたしの手を握り返す。
 国道のわきの階段を降りると、わたしたちの目の前に広い砂浜と、青い海が広がった。