レジでは幸野がお金を払ってくれた。
「わたしの分はわたしが払う」と言ったのに、「いいよ、おれが誘ったんだし、電車でほったらかしにしちゃったし」と言ってきかない。

「それに最初のデートのときくらい、カッコつけさせてよ」

 あははっと笑う声を聞きながら、わたしたちは海へ向かって歩く。
 空はよく晴れていて、海風が心地よい。

「じゃあ次はわたしが払うね」
「でも池澤さん、バイトしてないじゃん。金あるの?」
「お、お年玉があるから」
「お年玉? かわいいこと言うなぁ」

 バカにされたかな?
 よくお姉ちゃんにも、小学生みたいって笑われるし。
 でもほんとうにお年玉はたくさんあるんだ。
 趣味もなく、出かけることもなく、特に使い道がないから、毎年銀行に貯金している。

「そういえば、葬儀屋さんのバイトって、ほんとうにしてるの?」

 あかりたちと話していた声を思い出す。

「あ、また信じてない?」
「信じられるわけないでしょ?」
「ひどいなぁ。ほんとにやってるよ。雑用だけど」

 キラキラした日差しを浴びる幸野の横顔と、葬儀屋さんの仕事がまったく結びつかない。