「そういえば悟くんって、サッカーのクラブチーム入ってたよね?」

 あかりの声が聞こえる。

「ああ。あのころはけっこう、ガチでやってたから……」
「え、そうなのか? てことはサッカー部入部希望?」

 サッカー部の木村くんが話に加わってくる。

「あ、いや、もうおれ、サッカーはやめたんだ」
「えー、なんでー? うまかったのに。体育でサッカーやったときのこと、あたし覚えてるよ? ガンガンシュート決めて、カッコよかったじゃん!」
「じゃあ入ってくれよ。頼む! うちの部、人数少なくてヤベーんだ」

 木村くんの声に、幸野が答える。

「ごめん。おれの華麗な足さばきを披露したいのはやまやまなんだけど、バイトしたいんだよね。金ないし」
「おいおい、高校生の青春はバイトよりサッカーだろ?」
「ほんと。もったいない」
「や、おれ、前の学校で遊びすぎて、マジでいま金なくて。これじゃ彼女をデートに誘えないし」
「え、幸野くん、彼女いるんだ?」
「いや、いないけど」

 あははっとまわりのみんなが笑いだす。
 幸野はあっという間に、このクラスに溶け込んでいる。
 東京から来たイケメンってだけで注目の的なのに、もともとコミュニケーション能力も高かったのかもしれない。

 たくさんの笑い声を聞きながら、わたしは昨日のことを思い出す。
 歩道橋で、幸野と会ったこと。
 あんなふうに声をかけてきたのは、幸野にとって特別なことでもなんでもなくて……