パスタのボロネーゼとカルボナーラで迷ったあと、わたしは幸野と同じボロネーゼにした。

「なんでこっちにしたの?」

 運ばれてきた赤いパスタを見ながら幸野が聞く。

「わたし他のひとの食べてるものが、絶対食べたくなっちゃうから」

 幸野が噴きだすように笑う。

「だったら言えばあげたのに。次からはふたり違うの頼んで、交換して食べよ」

 その声を聞きながら、「次」なんてほんとにあるのかな、なんて思う。
 フォークを手に持った幸野が、「いただきまぁす」と機嫌よく言って、パスタを食べはじめる。
 わたしも「いただきます」と言ったけど、なんだかうまく食べられない。

 だって、なんだか緊張する。
 あ、白いセーター着てきちゃった。はねないように気をつけなくちゃ。
 ていうか、カルボナーラにしたほうがよかったかも。
 そんなことを考えれば考えるほど、動きがぎこちなくなり、ロボットみたいになってしまう。

 となりの席からくすくすと笑いあう声が聞こえた。
 その向こうの席も、そのとなりの席も。
 みんな楽しそうにおしゃべりしながら食べている。

 わたしはちらっと向かい側の席を見た。
 幸野はパスタを口に入れ、「うん、これ、うまい」なんて言っている。

 幸野は緊張しないのかな。
 こういうの慣れてるのかな。
 女の子とデートしたことあるのかな。
 わたしは目の前にいる「彼氏」のことを、なんにも知らないんだ。