幸野に連れられて入ったのは、海が見えるテラスで食事ができる、素敵なレストランだった。
 わたしはメニューを見ながら、ちょっとドキドキする。

 こんなおしゃれな店に入ったことなんてない。
 おまけにまわりはカップルだらけだ。
 なんというか……ものすごく居心地が悪い。

「なにびくびくしてるんだよ」

 メニューを見ながら、幸野が首をかしげる。

「だ、だってここ、カップルばっかだよ?」
「は? おれたちだって、カップルじゃん。堂々としてろよ」

 あははっと笑う幸野。
 わたしはメニューで顔を隠す。
 わたしたちも、まわりのひとからは、カップルって見られているのかな。

 ちらっととなりの席を見ると、仲良さそうに笑いあっている男女の姿が見える。
 あのふたりはお互い、想いあっているんだろうな。
「好き」って伝えあって、つきあって、デートをしにここに来た。

 でもわたしたちは?
 だってわたしは幸野のこと……

「決まった?」

 かけられた声にハッとする。

「ま、まだ」

 早く決めないと。
 こういうとき、わたしはいつも一番遅くて、お母さんに怒られるんだ。

「いいよ、ゆっくり決めな。時間はたっぷりあるんだしさ」

 幸野は静かに笑うとテーブルに頬杖をつき、海をながめる。
 わたしはメニューの陰から、その横顔をちらっと見る。

『好きだからだよ』

 わたしたちがつきあうことになったとき、幸野はわたしにそう言った。
 ほんとうかどうかはわからないけど。

 じゃあわたしは?
 わたしはどうして、このひととつきあっているの?

 海からの風がふわっとわたしの髪を揺らす。
 この季節、テラス席はちょっと寒い。
 そうしたら、向かい側に座っていた幸野が立ち上がり、わたしのとなりに座った。