「わぁ……」

 広々とした風景に、自然と気分もほぐれる。

「あんたが来たかったのって、ここ?」
「うん。そう」

 ここはこのあたりでは有名な観光地。
 海岸沿いにはおしゃれなカフェやレストランが並んでいて、海にかかる橋を渡れば、ちいさな島に行くこともできる。
 昔は家族でよく遊びに来た。それに小学校の遠足でも……

「あっ」

 わたしはハッと気づき、となりに立つ幸野を見上げる。

「ここ、四年生の遠足で来た……」
「そう。懐かしいだろ?」

 覚えていたんだ、幸野は。あの日のこと。

「おれ、四年生以来」
「わたしも」

 幸野が海のほうを見つめ、つぶやくように言う。

「もう一度来たかったんだよね。ずっと、ここに」

 来たかったの? ここに?
 たしかに有名な観光地ではあるけれど……いまは冬で、海水浴ができるわけでもないし……

「あとで海岸に降りてみようよ」
「うん」
「その前にとりあえず腹減った。なんか食いに行こう」

 そう言って幸野は、わたしの手を引き歩きだした。