わたしたちは駅から電車に乗った。
 学校とは反対方向の電車だった。
「どこに行くの?」と聞いても、「終点まで」と答えて、幸野はいたずらっぽく笑うだけ。
 しかたなくわたしは、幸野のあとについていく。

 日曜日の電車はすいていた。
 あいている席にふたり並んで座る。
 わたしの肩と幸野の肩が触れ合って、幸野はまたわたしの手を握りしめた。

 窓からあたたかい日差しが差し込んでくる。
 前に座っているおじさんが目を閉じて、首をこくんっこくんっと揺らしている。
 わたしはそのおじさんの姿を見つめながら、電車に揺られる。
 手を握ったままの幸野はなにもしゃべらない。

 ふと肩に重みがかかった。
 となりを見ると、幸野もおじさんと同じように目を閉じて、わたしの肩にもたれかかっている。

「幸野?」

 声をかけてみても、目を開けない。
 寝てるの? でもなんだか気持ちよさそう。

 電車のなかはぽかぽかあたたかくて。
 つないだ手も、わたしにもたれかかる幸野の体もあたたかくて。
 わたしもそっと頭をとなりに傾ける。

 静かで、人けのない車内。
 聞こえてくるのは電車の走る音だけで、誰もわたしたちのことなど気にしていない。

『おれはこの世界に、池澤さんさえいればそれでいい』

 幸野の言った言葉が頭をよぎる。
 いつもふざけてばかりのやつだから、そんなこと本心で言っているとは思えないけど。

 このままずっと、電車に揺られて走っていけたら。
 ふたり寄り添いあって、誰にも気づかれず、遠くまで行けたら。

『それでもいい』

 幸野はわたしに、そう言いそうな気がする。

 電車が大きな駅に着いた。
 開いたドアからつめたい空気が入りこみ、大勢のひとがざわめきと共に乗りこんできた。