「どこいくか、決めてきた?」

 歩道橋の真ん中で、幸野がわたしに聞いてくる。

 当たり前だけど、今日の幸野は私服だ。
 黒いジャケットに細身の黒いパンツ。首にはマフラーをぐるぐる巻いて、頭にはニットキャップ。
 悔しいけど、似合っているしカッコいい。

 わたしは白いセーターとジーンズに、マウンテンパーカーを羽織ってきただけ。
 もうちょっとおしゃれな服を、お姉ちゃんに借りてくればよかったかも、なんて考えている自分が恥ずかしくなって、首をぶんぶんっと振った。

「う、ううん……」
「なんだよ、決めてきてって言ったじゃん」

 ほんとうは考えたんだ、すごく。頭が痛くなるくらい。
 でもわたし男の子と出かけたことなんて一度もないし、最近は女の子とさえ出かけてない。

「あ、あんたの行きたいところでいいよ」
「え、おれの?」

 わたしはうなずく。
 幸野は首をかしげて、考えはじめた。

「んー、でもこのへん、遊ぶところないしなぁ……」

 たしかに。
 あかりたちがよく遊んでいるのは、学校の最寄り駅。
 あの駅のまわりには、大きなショッピングセンターや映画館、カラオケやカフェなんかもそろっている。
 でもわたしたちの住むこのあたりは、住宅街と、国道沿いにあるスーパーやコンビニくらい。

 すこし考えていた幸野は、「あ、そうだ」と声を出してわたしを見た。

「あそこ行こう」
「あそこってどこ?」
「ちょっと遠いけど、つきあって」

 幸野はわたしの手を取ると、行先も言わず、駅に向かって歩きだした。