歩道橋の階段を駆け上ると、幸野がいた。
 手すりに手をかけて、ぼんやりと遠くを見つめている。

 ずっと前にも、幸野はこんなふうにひとりでいた。
 暗くなった空の下、家に帰ろうとしないで。

「こ……」

 わたしは思い切って声を出す。

「幸野!」

 わたしの声に、名前の主がゆっくりと振り返る。

「おはよ、池澤さん」
「お、おはよう」

 まぶしい光のなか、わたしの顔を見て、幸野が嬉しそうに笑った。