「あら、莉緒、どこか出かけるの?」

 日曜日、鏡の前で髪を整えていたら、お母さんに聞かれた。

「あ、うん。ちょっと……」

 お母さんはじろじろとわたしの髪形や服装をながめる。
 休みの日にわたしが出かけるなんて、久しぶりだからだろう。
 なんだか居心地が悪くなって顔をそむけたら、お母さんが言った。

「めずらしいわね。あかりちゃんと?」

 その名前にドキッとする。

「最近あかりちゃん、遊びに来ないわね」

 そんなことを言いながら、お母さんはリビングに行ってしまった。
 わたしはちいさく息を吐く。

 お母さんはわたしがまだ、あかりと仲がいいと思っているんだ。
 そしてわたしが遊びに出かける相手は、あかりくらいしかいないって思っている。

 でもしかたない。ずっとそうだったから。
 わたしはあかりが好きで。ずっとあかりのあとを追いかけ続けて。

『きっとあかりは池澤さんに、ずっと自分より劣っていてほしかったんだよ』

 いつか幸野に言われた言葉を思い出す。

 そうなのかな。
 あかりはやっぱりそう思っていたのかな。
 そしてわたしは……このままでいいって思っているんだろうか。

「あっ」

 気づくと約束の時間が迫っていた。

「いってきます!」

 あわててバッグを持って、外へ飛び出す。

「気をつけなさいよ! あんたすぐ転ぶんだから!」

 家のなかからお母さんが、小学生に言うような言葉をかけてきた。