その日の休み時間は、いつもよりにぎやかだった。
 転校生の幸野のまわりに、男子も女子も集まっている。
 中心となって話しかけているのは、やっぱりあかりだ。
 わたしは机の上に文庫本を広げたまま、ちらっと彼女たちを横目で見る。

「悟くん、転校してからずっと東京で暮らしてたの?」
「うん、そう」
「こっちに戻ってきたのは、おうちの都合かなんか?」
「あー、まぁ、そんなとこ。久しぶりすぎて、昨日なんか迷子になりそうになってさ。かわいい女の子に助けてもらった」
「なにそれー」

 きゃははっと楽しそうに笑うあかり。
 あかりが一目で幸野を気に入ったって、わたし以外のみんなも気づいているはず。
 あかりは見た目が良くて、ノリのいい男子が好きなんだ。

 あかりのそばで幸野も笑い、わたしのほうをちらっと見た。
 わたしはあわてて、文庫本に視線を移す。

 かわいい女の子って、言ったよね? それって……
 おかしなことを考えている自分に気づき、わたしはぶるぶるっと首を横に振る。
 わたしが「かわいい女の子」のわけ、ない。