「羽鳥?」
「うん。一個上の先輩。サッカー部の」

 その日の帰り、わたしは幸野に聞いてみた。

「小学生のころ、同じサッカークラブだったって」

 幸野は空に目を向けて、考えるようなしぐさをする。

「今度また、一緒にサッカーやろうって言ってた。覚えてない?」
「さぁ、覚えてねぇな」

 わたしはとなりを歩く幸野をにらむ。

「ほんとに?」
「え、おれがうそついてるって思ってる?」
「うん」

 だって、同じクラスでもないわたしのことを覚えていたのに、同じサッカーチームだった先輩のことを覚えていないわけないもの。

「ほんとは覚えてるんじゃないの?」

 幸野は言いたくない話になると、すぐにはぐらかすから。

「ていうかさ」

 幸野がわたしから目をそらして言う。

「そいつがどうしたの? もしかして告白された先輩って、そいつのこと?」

 心臓がドキッと跳ねた。
 幸野がにやっとわたしを見る。

「当たりか。池澤さんはすぐ顔に出る」
「話そらさないでよ。先輩のこと覚えてるくせに、どうしてうそつくの?」
「だからほんとうに覚えてないんだって。記憶力悪いんだよ、おれ」
「うそ」

 わたしは立ち止まって、幸野をもう一度にらむ。
 幸野は軽く笑ってから、わたしに言う。