あかりたちからの嫌がらせがなくなったとはいえ、まだまだ学校という場所は油断ができない。
 特に女子しかいないトイレと更衣室は、わたしにとって地獄のような場所だ。
 わたしが入った途端、ひそひそくすくす声がする。
 制服を隠されたり、ケチャップをかけられたりしていたころよりは、ましだけど。

 だからわたしは、なるべく時間をずらして更衣室へいく。
 あかりたちが着替え終わったころ、こっそり入り、急いで着替えをするのだ。

 その日も最後に着替えを終え、ひとりで教室へ向かって歩いていた。
 次はお弁当の時間だから、ゆっくり戻ればいい。
 そのとき渡り廊下で、わたしを呼ぶ声がした。

「池澤さん」

 ハッと振り返ると、わたしに駆け寄ってくる男子生徒の姿が見えた。
 さわやかな黒髪のイケメン。
 サッカー部の羽鳥先輩だ。
 一年前のことを思い出し、体に緊張が走る。

「久しぶりだね、元気?」
「は、はい」

 テニス部の練習中、サッカー部の羽鳥先輩を好きになったあかり。
 声をかけたいけどひとりじゃ恥ずかしいと言って、いつもわたしを連れていった。
 そのうち先輩はあかりだけじゃなく、わたしとも気軽に話してくれるようになって……
 でもあんなことになってから、わたしは先輩と一度も話していない。

 久しぶりに会った先輩は、わたしの顔を見て、やわらかく微笑む。