いつもの道に小学生はまだ歩いていなかった。
 幸野の姿も見えない。
 空は今日もよく晴れていて、乾燥した空気はピリッと痛いくらい冷えている。

 わたしはその場に立ち止まって考える。
 毎朝小学校のほうから歩いてくる幸野。
 いったい家を何時に出ているんだろう。
 どこで時間をつぶしているんだろう。
 わたしはやっぱり、幸野のことをなにも知らないんだ。

 ゆっくりと足を動かした。小学校の方向へ。
 きっとそっちに行けば幸野に会えるって、そう思ったから。

 早朝の小学校には、人けがなかった。
 もう少しすれば、ここにたくさんの子どもたちの笑い声やはしゃぎ声が響くはず。
 フェンスの外から校庭をながめる。
 夕暮れの放課後、幸野とふたりでここに来たことを思い出す。

 あの日……わたしはとなりにいた幸野の、遠くを見つめていた視線を思い出す。
 あの日、幸野が見ていたのは……

 校庭の向こうに見える、団地の建物。
 わたしが小学生のころまでは、ひとが住んでいたけれど、いまはすべて空き家になっているはず。
 もうすぐ取り壊されて、新しいマンションが建つって、お母さんが言っていた気がする。

 わたしは学校のフェンスに沿って歩きだす。
 あの団地に行けば、幸野に会える。そんな気がした。