「ねぇ……」

 その日の放課後も、駅から家への道を幸野と手をつないで歩きながら、わたしはつぶやいた。

「あかりたちのことなんだけど……」
「ん? なんかされた?」

 わたしは首を横に振る。

「なんにもされてないよ」
「よかったじゃん」

 幸野がわたしのとなりでへらっと笑う。
 わたしはつないだ手に、きゅっと力をこめる。

「わ、わたしはいいけど、あんたはいいの?」
「は?」
「だってあかりたちに無視されて……あんたまで無視される必要はなかったのに」

 休み時間、楽しそうに笑っていたり、放課後、みんなでカラオケに行ったりしていたじゃない。
 幸野はあかりに気に入られていて、クラスのなかでも中心人物だったはず。
 それなのにいまは……いじめられっ子の、地味な女とつきあって、みんなから変な目を向けられている。

 幸野はきょとんとした顔でわたしを見てから、あははっと声を上げて笑う。

「いいよ、あんなクソみたいなやつら。池澤さんだって、そう思ってるだろ?」

 幸野がわたしの顔をのぞきこむ。

「消えちまえばいいって思ってるだろ?」

 わたしは首を横に振る。

「そんなこと、思ってない」
「え? あんなひどいことされたのに? もしかしてまだ、自分にも悪いとこがある、なんて思ってるわけ?」

 くちびるをぎゅっと噛みしめた。

「ひ、ひどいことはされたけど……でもそこまでは……」
「あまいな」

 幸野がつめたい声で言った。

「池澤さんはあまいよ。お人よしすぎる」
「で、でも『殺す』とか……そういうこと言うのはよくない」
「は? 先にノートに書いてきたのはあいつらじゃん」
「そうだけど、でも……」

 幸野が足を止めた。わたしも足を止め、幸野の顔を見る。
 幸野はじっとわたしのことを見つめている。