「昨日話した転校生を紹介するぞー」
「来た! 転校生!」
「待ってました!」
「静かに! 興奮するんじゃない!」

 ざわつく教室のなかで思い出す。
 そういえば昨日、先生が言っていた気がする。
 今日からこのクラスに転校生が来るって。
 でもまさか、こんなことって……

「じゃあ、幸野くん。みんなに挨拶して」
「はい」

 先生のとなりにいた男子生徒が、一歩前に出た。
 ついさっきまで大騒ぎだった教室が、しんっと静まり返る。
 そんななか、みんなの前に立った生徒が、にこっと笑顔で口を開いた。

「えっと、東京から来た、幸野悟です。四年生までとなり町の第一小学校に通ってたんで、もしかして知ってるひと、いるかもしんないです」
「あー!」

 するとあかりが大声を上げて、立ち上がった。

「知ってる! 悟くん! あたし、剣持あかり! 覚えてない?」

 幸野悟があかりを見た。そして少し考えたあと、「あー、同じクラスだった、あかりん!」と叫んだ。
 途端にあちこちから笑いがもれる。
 あかりが「きゃっ」と肩をすくめ、長い黒髪を指先にくるくると絡めた。

「やだぁ、その呼び方、懐かしすぎ!」
「あかりって、あかりんって呼ばれてたの?」
「かわいい!」

 教室中がまたざわめきはじめる。
 あかりはその中心で、幸野に向かって言う。

「そうだよー、久しぶり、悟くん! このクラスで第一小だった子は、あたししかいないけどねー」
「え?」

 幸野が不思議そうに首をかしげてから、ゆっくりとわたしに視線を向けた。
 わたしはビクッと体を震わせる。

「もうひとりいるよな?」

 わたしと幸野の目が合う。

「池澤莉緒さん」

 ぞくっとまた背中が冷えた。