教室につくと、あの甲高い笑い声が聞こえてきた。
 あかりだ。
 今日は自分の席で女の子たちに囲まれて、楽しそうに笑っている。
 わたしはごくんと唾を飲み込み、気づかれないようにそっと教室に入る。

 あかりたちと少し離れたところの席に、幸野が座っていた。
 熱……下がったのかな。
 昨日より、顔色はよさそうに見えるけど。

 でも今日、幸野はひとりでいる。
 いつもだったら、あかりたちとしゃべっているのに。

『今度池澤さんを傷つけたら、おれがあかりんを殺すよ?』

 昨日あかりにあんなこと言ったからだ。

 だけどわたしはなにもできず、黙って自分の席に向かう。
 そして気配を殺すようにして、授業の準備をはじめた。

「池澤さん、おはよう」

 びくっと肩を震わせ、顔を上げる。
 いつの間にかわたしの前に、幸野が立っている。

「な、なによ、急に」
「え、声かけるくらいいいだろ? クラスメイトなんだし」

 わたしはちらっとあかりのいる席を見る。
 あかりたちもこっちを見ていて、なにかこそこそと話している。

「大丈夫だよ」

 幸野が小声でわたしに言った。

「あいつらのことなら、心配しなくていいから」

 わたしは幸野の顔を見上げる。

「池澤さんは、なにも心配しなくて大丈夫」

 幸野はそう言って、にっと笑うけれど……
 みんなの前であんなことを言われたあかりが、黙っているはずはない。