翌朝、寝不足のまま家を出て、学校へ向かう。
 昨日の夜もいろんなことを考えてしまって、また眠れなかった。
 最近こんなのばっかり。
 これもぜんぶ、あの男のせいだ。

 二か月前にお母さんが亡くなったって言っていた。
 小さいころに別れたお父さんと、その奥さんと赤ちゃんと暮らしているって。
 冗談みたいに言っていたけど、あの話はきっとほんとうだ。
 だから幸野はこの町に戻ってきて、うちの学校に転校してきたんだ。

 歩道橋の上で足を止め、幸野の家の方向を見下ろす。
 幸野はどんな気持ちで、あの家族と暮らしているんだろう。

『卒業したらあの家を出て、ひとりで生きていこうと思って……だからバイトして金貯めてる』

 つめたい風に吹かれながら、ぎゅっと手を握る。
 歩道橋から見上げた真冬の空は、どこまでも青く晴れ渡っていた。