校門を出て、駅に向かって歩く。
 いつもと同じ道だけど、保健室で少し休んでいたせいで、いつもより時間が遅い。
 天気の悪かった昨日と違い、空には夕暮れのピンク色の雲が浮かんでいる。

 電車はけっこう混んでいて、幸野はつらそうに見えた。
 だけどわたしが視線を送ると、へらっと笑ってみせる。
 やせ我慢しなくてもいいのに。ほんとバカなやつ。
 最寄り駅につくと、幸野は大きく息を吐いた。

「はぁ……」

 やっぱり具合が悪いんだ。
 わたしはちょっと足を速めて、幸野のとなりに並ぶ。
 そしてそっとその手を握った。

「池澤さん?」

 幸野がわたしを見たけど、無視して歩く。
 そんなわたしのとなりで、幸野が笑った。

「風邪うつっても、しらないよ? てか、おれのこと、そんなに心配?」

 わたしは黙って進んだあと、ぼそっと口を開く。

「わたしの……せいだから」

 つめたい風が、わたしと幸野の間を吹き抜ける。
 だけど幸野の手は、すごく熱い。

「ちがうよ」

 わたしの耳に幸野の声が聞こえた。

「おれが好きでやってるだけだよ」

 そのとき、幸野が教室で言った言葉を思い出した。

『おれは池澤さんのこと好きだから』

 いまごろになって頭がかあっと熱くなり、急に心臓がドキドキしてきた。