幸野はやっぱり熱があった。三十八度も。

「幸野くん、だっけ? 家は近いの?」
「えっと、電車で三駅先ですけど」
「おうちのひと、迎えにこれるかしら?」

 すると幸野が勢いよく首を横に振った。

「無理です。家のひとみんな出かけてるんで。ていうか、小学生じゃないんだから、ひとりで帰れますよ」

 わたしはぎゅっと手を握って、先生に言った。

「だったらわたしが送っていきます。家、近いので」
「あら、じゃあ、そうしてくれる?」

 先生はにっこりわたしに微笑んだあと、幸野に言う。

「幸野くん、あんまり無理しちゃだめよ? 熱が下がらないようなら、病院で診てもらいなさい」
「はぁい」
「しっかりしている彼女がいて、よかったわね」

 わたしの心臓がドキッと跳ねる。
 か、彼女? しかもしっかりしているなんて、いままで一度も言われたことない。
 だけど幸野は嬉しそうな顔で、もう一度「はい」と答えて、わたしに笑いかけた。