「は? 本気?」
「本気」

 あかりが顔をしかめる。
 幸野はまっすぐあかりを見ている。

「おれ、池澤さんにつきあってって言ったんだ。池澤さんは嫌がってるけど。でもおれは池澤さんのこと好きだから、もうこういうのはやめてほしいんだよね。好きな子がいじめられてるなんて、おれ、耐えられないから」

 顔がかあっと熱くなる。
 全身が震えて、逃げだしたいのに動けない。

 幸野は息を吐くように笑ってから、ノートの文字を指先でなぞる。
 わたしはあそこに書いてあった言葉を思い出す。

【悟に言いつけたら殺すからね】

 すると幸野が顔を上げてあかりに言った。

「今度池澤さんを傷つけたら、おれがあかりんを殺すよ?」
「は? なに言ってんの?」
「あかりんが死んだら、おれが死化粧してやるな。大丈夫、安心して。どんなめちゃくちゃな死に方しても、ちゃんと綺麗にしてあげるから」

 あかりが立ち上がって怒鳴る。

「バカじゃないの! あんた頭おかしいよ!」
「いまごろ気づいた? あかりん、おっせーよ」

 あははっと声を上げて、幸野が笑う。
 あかりは怒りでぶるぶる震えていて、まわりの女の子たちは戸惑っている。
 男子たちは唖然とその様子を見守り、わたしはゴミ箱の前に突っ立ったままだ。

 歪んでしまった空気のなか、幸野がノートを持ってこっちに来た。
 そしてわたしにノートを返すと、満足そうに微笑んだ。