「なんかさ、池澤さんの弁当が捨てられてたんだけど、誰がやったか知らない?」

 女の子たちが顔を見合わせる。

「それから池澤さんの制服も。捨てたの、誰?」

 あかりが口をとがらせる。

「知るわけないじゃん。そんなの」

 わたしは幸野に渡されたコンビニの袋を、ぎゅっと握りしめた。
 かさっと音を立てた袋のなかには、おにぎりとサンドイッチが入っている。
 これ、幸野のお昼ごはんだろうか。

「てか、悟。熱あるんじゃなかったの?」
「熱があっても休んでられないよ。なんか嫌な予感がしてさ。で、来てみたら、案の定これだし」

 そう言うと英語のノートを開いて、あかりの前にバンっと叩きつける。

「それにこの落書きも」

 一瞬教室内が静まり返って、あかりの顔色が変わる。

「なぁ、こんなことするの、ダサいって言っただろ? あかりん」
「わたしじゃないよ」
「でも指示してるのは、あかりんだよね?」

 あかりの顔が、真っ赤になる。

「莉緒があんたにチクったの?」
「チクってねーよ。昨日このノート見たあと、池澤さんの様子が変だったから気になってたんだ」

 昨日から気づいていたんだ。幸野は。

「な、なんなのよ! いつも莉緒ばっかり庇って! あんた莉緒のこと好きなの?」
「好きだよ」

 教室の空気がざわっと揺れたのがわかった。
 わたしは呆然と突っ立ったまま、動けない。